2024年12月2日(月)

Wedge REPORT

2012年2月1日

 「バランス栄養食」なる商品を扱っている主要企業は、私が調べたところ4社ほどあり、商品数は36品目に及びます。これらのFERは、6.8%程度のものもありますが、40%の商品が27品目、50%以上の商品も9品目もあります。厚生労働省が策定する「日本人の食事摂取基準(2010年版)」では、FERについて「1から29歳:20%以上30%未満」「30歳以上:20%以上25%未満」としています。個別食品のFERの高さはそれ自体非難するべきではないかもしれませんが、これらの商品の宣伝文句がさも「食事の代わりになる」かのようであるのが問題です。

「食材の安全」ばかりを強調するが…

 放射能問題との関連では、各企業も自主検査を積極的に実施しているようですが、「食材の安心」ばかりを謳っていて、消費者もその点ばかりを気にしているという状況に憤りと懸念を感じます。食生活においてFERを適切に保つことが非常に重要ですが、多くの外食チェーンでは、「食の安全」を強調することはあっても「食べ過ぎに注意しましょう」と警告することはないでしょう。

 ある牛丼チェーンが属するグループは、「食の安全情報室」をウェブサイトに設けています。そこでは、「企業独自の厳しい基準を満たした米国産牛肉を使用し、米や野菜、卵については産地を問わず放射線検査を実施し、食品衛生法の暫定規制値以下であっても、少しでも異常値が出た場合は出荷を停止する方針」、とあります。今回はこの検査体制にはあえて言及しませんが、それほど「食材の安全」を強調しても、FER40%(この牛丼チェーンで最も高いFER数値の商品)の牛丼を食べ続けることによる健康への影響には触れていません。私からすれば、こちらの方が極めて深刻な問題と言えるでしょう。

 もちろん、油自体が悪者なのではありません。今流行している「タニタの社員食堂」のレシピを見てみてください。肉や魚もしっかり食べていますし、多様な食材をまんべんなく適量を食べることの重要性がよく分かります。バランスよく食べるというのは地味で注目の集まりにくい情報ですが、タニタのレシピが、一つきっかけになってくれれば、と思います。

 食品の個別の情報に過剰になり過ぎて、食生活全体に目がいかないというのが、フードファディズムに陥りやすい人の傾向です。私は、『フードファディズム メディアに惑わされない食生活』(中央法規)の中で「日本人の食事摂取基準」に基づいて「普通に食べる」例として選定した食材とそれを使用した献立例を示しました。特定の食品にこだわるのではなく、かたよりのない食品構成が「健康維持に役立つ食事」なのです。

「フードファディズム」に陥りやすいのは女性?

 私はこのフードファディズムの概念を広めていく上で、同時に食におけるジェンダー問題にも触れています。一見その関係性はよく分からないかもしれませんが、今回の放射能の問題でも、私のところへ質問を寄せてこられたのは女性ばかりです。テレビなどのインタビューでも、子どもへの影響を心配するコメントをしているのは「お母さん」です。以前私が実施した特定保健用食品の購入についての調査でも、女性の方が男性よりも食への関心が高いという結果が出ています。「子どもを守る」という気持ちが働くことも要因かもしれませんが、概して男性より女性の方がフードファディズムに陥りやすいという傾向はあるでしょう。

 今回の放射性物質と食の安全の問題についても、「まじめに」取り組む母親と、関心のない父親との間に亀裂が生じた、という話を耳にしました。フードファディズム対して、冷静に論理的に考えていくために、情報を多角的に整理する力を少しずつでも身に付けていってほしいと思います。ただ、日々の食生活で難しいことは必要ありません。特定の食品を悪者にしたり、過度に摂取しすぎたりせず、産地も含めて多様な食材を食べる「普通」の食事をしていれば、現在の状況では問題ないと思われます。


高橋 久仁子(たかはし・くにこ)
群馬大学教育学部教授。1949年生まれ。日本女子大学食物学科管理栄養士専攻卒業、東北大学大学院農学研究科食糧化学専攻博士課程修了。農学博士。日本ではじめて「フードファディズム」の概念を紹介・翻訳。同時に、「食生活は女性の役割」という社会通念の打破をめざし、教育学部で教鞭をふるう傍ら多数の講演を行う。主な著書に「『食べもの情報』ウソ・ホント―氾濫する情報を正しく読み取る」(講談社)、「フードファディズム―メディアに惑わされない食生活」(中央法規)

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