2024年12月22日(日)

食の安全 常識・非常識

2012年2月15日

 食品中の放射性物質の新基準値案が検討されています。これまでの暫定規制値に比べて数値が大きく下げられ、4月から施行される見込みです。ところが、新案に異論が出てきました。新基準値設定には、文科省設置の放射線審議会の了承も必要なのですが、放射線審議会が大筋では了承しながらも、「子どもに対する過度の安全尤度を設定している」などの意見を添えようとしているのです。つまり、「厳しすぎる」というわけです。これを受け、読売新聞も2月4日付社説で「食品の放射能 厚労省は規制値案を再考せよ」と主張しました。

 「何を言っているんだ。基準は、厳しくすればするほど安全性が高まるのだから、いいじゃないか。反対する原子力ムラの学者たちや御用ジャーナリストはけしからん」。そう受け止めたあなた、それはおそらく、世論の大多数の意見です。でも、その裏側には「落とし穴」がいっぱいです。

 私は、運営しているサイト「Foocom.net」そのほかで、昨年12月から「放射性物質の新規制値、下げればいいのか?」などと書き続けていました。今やっと、マスメディアが騒ぎ始めましたが、「遅すぎるよ!」という気分です。新基準値の落とし穴について、解説します。

新基準値でも被ばく線量の低減はわずか

新基準値案では、ほとんどの食品は「一般食品」に含まれる。一般食品の基準は乳児や幼児についても検討したうえで決められており、乳幼児を含めてすべての人が食べて問題がない。しかし、「子どもに配慮する」という名目で、乳児用食品と子どもの摂取量が多い牛乳は、さらに数値が引き下げられている。文科省設置の放射線審議会では、委員が「過度に安全過ぎ、社会の混乱を招く」と批判している。
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 放射性セシウムの新しい基準値案は、一般食品が1kgあたり100Bq、飲料水10Bq、乳児用食品50Bq、牛乳50Bqです。これまでの暫定規制値は、飲料水や牛乳、乳製品などが1kgあたり200Bq、それ以外の食品は500Bqですから、数値がうんと小さくなり厳しくなります。

 ところが、意外なことに、この数値引き下げによって被ばく線量が大幅に低減されるわけではありません。厚労省審議会のワーキングチームが、国や県などが行っているモニタリング検査結果を基に推定したところ、規制が暫定規制値のままであれば、中央値濃度の人(個人が食べる食品の種類や量などで放射性セシウムの摂取量は大きく異なるため、少ない人から多い人まで順に並べた時に中央に来る人)の年間の被ばく線量は0.051mSv、新基準値に移行すれば0.043mSv。わずか0.008mSvの低減にしかなりません。

 厚労省は1月26日の放射線審議会で暴露量の推定をもう少し細かく説明していて、暫定規制値をそのまま続けると、摂取量の多い上位の人、2000人に1人は、被ばく線量が1mSvを超えるが、新基準値に移行すればすべての人が1mSvを下回る、としています。

 たしかに、被ばく線量は低減されそうです。ただ、被ばくによるがんリスクが顕在化するのは100mSv程度からであり、日本人は食品に含まれる自然の放射性物質によって年間に0.41mSv被ばくしているのですから、比較すれば微々たる低減と言ってよいでしょう。

流通している食品の多くは検出限界未満

 なぜ、リスクは下がらないのか。それは、ほとんどの食品が実はもう、暫定規制値を大きく下回り、低い数値か検出限界未満だからです。モニタリング検査などで高い汚染が見つかるのは、原木シイタケや一部の魚介類など限定的です。 


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