2024年7月20日(土)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2012年5月1日

 温首相は汚職の横行や貧富の格差などの解決には政治体制改革が不可欠だとし「政治体制改革の成功がなければ、経済体制改革も徹底できない。特に党と国家の指導制度の改革を推進しなければならない」と強調した。しかし、党大会を前にして安定志向に傾く指導部の中で、温首相は明らかに孤立している。

 深刻化する汚職や貧富の格差への対応という点からみれば、薄氏の左派路線を否定したのだから、温氏の右派路線を行くべきだが、指導部は安定維持を口実として、難題はすべて先送りする構えだ。

批判から一転
胡総書記に忠誠の北京日報

 北京市党委員会の機関紙、北京日報は3月31日付の紙面で「総書記は党の最高指導職務だが、最高指導機関でない」として、総書記への過度の権力集中に反対し集団指導を重視すべきだとの論評を掲載した。

 江沢民前国家主席に近い劉淇北京市党委書記の意向を受け、胡錦濤総書記をけん制したとの憶測も出た。正面から受け止めれば、党政分離の政治体制改革を訴える温首相の主張を支持する改革派の論文とも読める。

 いずれにせよ、北京日報の編集局は党指導部から大目玉をくらったらしく、4月5日付紙面の第1面トップに「総書記の付託を銘記せよ」と題した評論員論文を掲載し、胡総書記への忠誠を誓った。

 一方、温首相は中国共産党の政治理論誌「求是」(4月16日発行)に「権力は陽光の下で行使せよ」と題した論文を掲載し、政府改革の推進と反腐敗を訴えたが、民主化につながる本格的な政治体制改革に着手する気迫は感じられなかった。

バブル崩壊で国民の不満爆発か

 しかし、政治体制改革の先送りは、いずれは大爆発を起こす国民の不満という「時限爆弾」を体制内に抱え込み続けているようなものだ。汚職の横行や貧富の差の拡大のほか、強制的な土地収用や低賃金への庶民の不満が膨らみ続けており、全土で連日のように抗議行動が起きている。

 日中産学官交流機構特別研究員の田中修氏は共同通信が4月18日配信した評論記事で、中国のバブルが2010年代後半に崩壊する危険性を指摘した。田中氏は、高成長期にあり政府の金融コントロールが強い今は「住宅バブルのソフトランディングは可能」と分析。しかし、成長が鈍化し、金融の自由化・国際化が進む10年代後半は「日本が深刻なバブル崩壊を経験した1980年代後半と酷似」し、危険な状態に陥るという。

 今秋の党大会後に習近平総書記を中心とした新指導部が発足する見通しだが、習指導部が2017年の第19回党大会を経て、2期目に入った後、経済危機を迎えるとの予測だ。このバブル崩壊が「時限爆弾」を誘爆する恐れは十分にある。

薄事件の全容解明と公表を

 今後の焦点は、薄氏の殺人事件への関与の度合いと、谷容疑者が海外送金したとされる巨額資産の性格だ。薄氏は今のところ、党の規律違反で調査を受けているが、刑事責任は問われていない。香港誌「亜洲週刊」は、ヘイウッド氏殺害事件を調べていた地元警察の捜査官5人が薄氏の指示で拘束された後に拷問を受け、うち3人が死亡したと伝えた。薄氏自身がヘイウッド氏殺害を指示したとの報道もあった。


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