中国共産党は直轄市、重慶のトップとして権力をほしいままにした薄熙来・前同市党委員会書記(62)について、党政治局員と党中央委員の職務を停止し、「重大な規律違反」の疑いで本格的な取り調べを始めた。また、中国の警察当局は、昨年11月に重慶市で知り合いの英国人男性を殺害した容疑により、薄氏の妻で弁護士の谷開来容疑者(53)を送検した。
「薄夫妻が不正に蓄財した巨額の資産を海外に送金」「薄氏は妻の殺人事件をもみ消すため捜査員を殺害」「殺された男性は英国のスパイ」「薄氏が胡総書記を盗聴」との海外報道も出ており、薄氏の失脚劇は、中国共産党中枢の政治局員夫妻をめぐる前代未聞のスキャンダルに発展した。
今後、薄夫妻の巨額収賄や殺人事件への関与が事実と認定されれば、2人に対する死刑あるいは執行猶予付き死刑(事実上の無期懲役)の判決もあり得る。胡錦濤・共産党総書記(国家主席)を中心とする指導部は薄氏切り捨ての影響を最小限にとどめようと、守りの姿勢を強め、温家宝首相が訴えていた本格的な政治体制改革は「凍結」したままだ。
欧米メディアの活発な報道
今回のスキャンダルが明るみに出るきっかけとなったのは、今年2月、重慶市の王立軍副市長が四川省成都市の米総領事館に駆け込んだ事件。王氏が何の目的で総領事館に入り、館員に何を話したかは、明らかになっていない。しかし、米英や香港など海外メディアはこれまで、王氏の行動の“輪郭”を伝えてきた。
4月24日付の米紙ワシントン・ポストによると、かつて薄氏の腹心だった王氏は今年初めから薄氏と対立。総領事館に対し、英国人ビジネスマン、ニール・ヘイウッド氏が心臓発作に見せ掛けて殺害された事件の詳細な記録を提出した。
ヘイウッド氏はコンサルタント業のかたわら薄氏の息子、瓜瓜氏=米ハーバード大学ケネディ政治大学院在籍=の家庭教師も務めた。谷容疑者は多額の資産を海外に移した可能性があり、一家の海外資産の運用を手伝ってきたヘイウッド氏と谷容疑者の関係が悪化。谷容疑者は昨年11月、薄家の使用人と共謀してヘイウッド氏を殺害した疑いが持たれている。
同紙によると、王氏が米国への「亡命」を求めたかどうかは確認されていないが、王氏は自らの身の安全を守るため、北京の党中央指導部に連絡。薄氏が派遣し、総領事館を包囲した地元警察官から逃れ、北京への安全な脱出方法を確保した後、駆け込みから30時間後に総領事館を離れたという。
「監視」する米英
中国指導部に求められる情報公開
英国人が被害者であり、秘密を握るキーパーソンが米総領事館に駆け込んだこともあって、欧米メディアは極めて活発な報道を展開。薄氏や谷容疑者の親族、親戚のビジネス展開や相関図を大きく掲載し、日本のメディアが後を追う形だ。