2024年11月23日(土)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2012年5月1日

 米英両国は薄氏失脚や殺人事件の捜査について、内政干渉はしない立場を固く守ってはいるが、「監視」は続けていく構え。欧米メディアの目も光っており、中国指導部も情報公開を迫られている。

 ただ、党指導者の家族や親戚が企業を経営し、特権を使って巨額の富を築くことは、けっして珍しいことではない。薄氏を「スケープゴート」として、その悪事を詳細に暴露して一罰百戒の効果を狙うか、ほかの指導者に累が及ばないよう薄夫妻の捜査や結果の情報公開に手心を加えるかは、党指導部の意向次第である。

党大会に向けて「安定志向」

 中国指導部の薄氏切り捨ては、3月15日の重慶市党委員会書記からの解任発表。4月10日の政治局員・中央委員の職務停止と谷容疑者の送検の発表-という2段階で公表された。

 11日付の中国共産党機関紙、人民日報の紙面を見ると、指導部の意向がよくみてとれる。同紙は第1面左中央の目立つ位置に(1)「党中央の正しい決定を断固擁護する」(評論員論文)(2)「薄熙来同志を重大な規律違反で調査-中共中央が決定」(3)「ヘイウッド死亡事件を法に基づき再捜査」-の3つの記事を並べた。

 評論員論文は王立軍事件、ヘイウッド死亡事件、薄氏の規律違反の3つを列挙して、「党と国家のイメージを著しく損なった」と強く批判。「事件の捜査と厳正な処理を行い、速やかに発表する」という党中央の決定をたたえ、法治の重要性を強調し、「優秀な成績で、第18回党大会を迎えよう」と結んだ。

 薄氏に対する規律違反の調査と、殺人事件の捜査は法に基づいて粛々と行うが、指導部は結束して、重要な党大会を迎えなければならない、という安定志向が色濃く浮かぶ。薄氏の失脚をきっかけとした連鎖的な権力争いや路線闘争は避けたいということだ。

 海外メディアは、党内序列9位の周永康政治局常務委員(治安担当)が薄氏をかばったため、指導部内で窮地に立たされていると報じた。しかし、4月24日付の人民日報は、第3面に胡総書記を中心とする指導部に忠誠を誓う周氏の論文を掲載。事実上、周氏失脚の観測を否定した。

難題はすべて先送り

 薄氏は暴力団一掃運動を強力に推進する一方、「唱紅歌」(革命歌を歌う運動)など、文化大革命を思い起こさせる大衆動員で、大々的な反腐敗キャンペーンを展開し、多くの重慶市民から支持を受けた。今秋の党大会で最高指導部入りも取りざたされた薄氏は今回の事件で完全に失脚した。

 権力・路線闘争の面を見れば、胡総書記を中心とする指導部は、中央の方針と異なる左派路線をとっていた薄氏を切り捨てた。毛沢東にも例えられた薄氏への個人崇拝や、暴力団や汚職官僚への強引な取り締まりの違法性も指摘されていた。

 温家宝首相は3月14日、全国人民代表大会(全人代=国会)閉幕後の記者会見で、政治体制改革の重要性を強調した際、「文化大革命の誤りと封建的な影響はなお完全に除去されてはいない」と薄氏を暗に批判。王立軍事件に関連し「現在の重慶市の共産党委員会と政府は事件を反省し、教訓をくみ取らなければならない」と語気を強めた。


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