2024年12月11日(水)

VALUE MAKER

2020年5月23日

成熟市場での生き残り策

 木樽醤油に力を入れてきたのには、もうひとつ大きな理由があった。小手川社長は語る。

【小手川強二(こてがわ・きょうじ)】  
1953年生まれ。東京大学経済学部卒。75年日本開発銀行入社。84年にフンドーキン醬油に入社。86年に社長就任。同社の創業は文久元年(1861年)。 ​
写真、左後ろが、世界一の「木樽」。

 「1986年に社長を引き継いだ時、製品価格を安くすると売れるが売上高の額は増えず利益はむしろ減る。しっかり価格を守ろうとすると量が減り、売り上げも利益も減る。成熟マーケットでどう生きていくかという大きな課題に直面したのです」

 そこで調べてみて気がついたのは、醤油の年間消費量が77年の1人10リットルをピークに6.5リットル程度まで減っていたこと。食の洋風化や外食・加工品・惣菜などの普及で、家庭で醤油を使うことが少なくなっていったのだ。ちなみに今では2リットル程度となっている。

 そんな中で、スーパー全盛時代を迎え、醤油はセールの目玉商材になった。1リットルペットボトル入りが199円といった価格で売られた。「もはや成熟マーケットどころか縮小する市場で価格競争すれば、自分で自分の首を絞める」。小手川社長は量を追求するのではなく、高付加価値化に舵(かじ)を切ることを決断したのだ。

 創業以来の商品である醤油や味噌(みそ)は「グレードアップ」して価格を上げても売れる商品を作る一方で、ドレッシングなどの加工品を増やす。その醤油のグレードアップの切り札が木樽醤油だったわけだ。

臼杵料理が食べられ、フンドーキンの製品も売る小手川商店

 「世界一木樽醤油」の小売販売予定価格は280ミリリットルで、1000円を超す。1リットルに換算すれば3500円以上。ウイスキー並みの価格である。量より質を求める世の中の流れに乗り、それでも売り切れる。お手頃の「八本木樽醤油」も720ミリリットルで1080円だ。 

 もうひとつ、付加価値を付ける方法として力を入れたのが、醤油をベースにした加工品。「しょうゆドレッシング」の開発に早くから着手、「ごまドレッシング」が販売中止を余儀なくされるほど売れた。

 小手川さんが社長に就任した時、醤油・味噌の売上高が60億円、加工品は5億円だったが、今は醤油・味噌が70億円、加工品は90億円に拡大。九州一の醤油味噌醸造会社に成長した。マーケットが縮小する中でも、醤油味噌の売り上げを伸ばしてきた。

 今や全国に販路を広げたが、それぞれの地域で受け入れられるための工夫もしている。醤油の味だけで70~80種、味噌は50種の地域に合わせた味に仕上げている。


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