新幹線の中で居眠りから目覚めて周りを見渡すと、半分以上の乗客が寝ていた。海外ではこうした風景を見ることは少ない。公共の場で堂々と眠れるほど日本が安全であるということだろうが、日本の社会がストレス社会だからかもしれない。睡眠とストレスは、可逆に反応すると思う。ストレスが強すぎると眠れなくなるが、睡眠をよく取るとストレスは緩和する。
居眠りといえば、若い頃に苦い経験をしたことがある。商社には1年に1度の与信会議というものがある。リスク回避を徹底するために得意先の信用度を調査し、取り組み方針を決定する、役員総出の重要な会議である。審査本部からするとレアメタル取引は特殊な市場で、危険極まりないように見えるが、営業マンの私にとっては狭い業界なので、取引は相互信頼が強固で審査本部がいうほど危険だとは感じていない。
そんな事情もあって、つい油断して居眠りをしてしまった。それも審査管掌役員の演説の最中に大きないびきをかいたものだから、役員もとうとう堪忍袋の緒が切れてしまった。自分としては反論の余地もなく平身低頭して、その場は「睡眠時無呼吸症候群」だと言い訳をして誤魔化した。
ところが、翌月にニッケルビジネスの詐欺事件に巻き込まれて4億円近くの大損を出してしまった。会議での内容とは直接関係はなかったが、直属の上司は「遂に罰が当たったから審査担当役員に詫びを入れよ」と叱責された。
安易な言い訳に使ってしまったが、この「睡眠時無呼吸症候群・SAS(Sleep Apnea Syndrome)」が、アメリカのスペースシャトル・チャレンジャー号の大爆発の原因となったと知って驚いた記憶がある。
チャレンジャー号の発射前の検査をする担当者がSASの患者で、居眠りをしたために操作を誤ったのが原因だというのだ。SAS患者は、睡眠中、呼吸ができなくなるため、そのつど目が覚めて睡眠不足となり、昼間に居眠りをしやすくなる。
海外出張で身に付いた 墜落睡眠という得意技
SASを原因とした事故は日本でも少なくない。トラック、飛行機、鉄道などSASによる居眠りが原因だとされる事故が起きている。日本では働き盛りを中心に、なんと200万人がSASだといわれている。程度の差はあるが、女房にいわせると私もSASであるらしい。いびきがうるさい上に、寝ている時に時々息が止まっていることもあるという。