次に着手したのが、「住まい」の提供。「アンド・センター」と名付け、前述のように事務所の上に、仮住まいできる部屋を用意したのだ。賃貸で5階建てのビルを借り上げた。2年前のことだ。相談だけにやってくる人も多いが、相談ついでにシャワーを浴びたり、仮眠室を利用する人もいる。
ちなみに「Homedoor」には、「家の扉」という意味とともに、駅のホームに設置されているホームドアの意味も兼ねている。「転落」を防ぐドアということだ。ホームレスの人たちにとっては最後の拠り所になっているのだろう。
「アンド・センター」の維持は大変だ。家賃や人件費で月に100万円はかかる。こうした川口さんたちの活動を支えているのは善意の寄付だ。毎月1000円出してくれるサポーター会員を1000人集めることを目標に資金集めをしている。
もちろん、相談窓口を開いたからと言って、おっちゃんたちが自主的に相談にやってくるわけではない。川口さんたちは路上生活者が多い場所を訪ねて食事を差し入れる「夜回り活動」を続けている。大阪市北区を中心に4コースに分かれて歩き、85食を配っている。そうやって徐々に信頼関係を築かなければ、心を開いて相談にやってくることはない。「6年声をかけ続けてようやく相談に来てくれたおっちゃんがいました」と川口さんは言う。
コロナ禍で増える相談者
今年に入ってからの新型コロナウイルスの蔓延が「Homedoor」にも影響を及ぼし始めている。「HUBchari」を使っていた外国人旅行客は姿を消したものの、通勤や市内の移動に自転車を使う人が急増。2割以上も利用率がアップしているのだ。地下鉄などの公共交通機関を使うよりも屋外を走る自転車の方が安全ということだろう。企業から「ポート」を設置してほしいという要望も来ている。
もうひとつはホームレスからの「相談」が3倍に急増したのだ。特別定額給付金をもらうにも路上生活者は住所がなく、受け取ることができない。さらに、景気が一気に冷え込んだことで、そのしわ寄せが非正規雇用などの弱者に及び始め、新たに路上生活に転落しかねない人たちが生まれているのだ。「最近の傾向はおっちゃんじゃなくて、若い人たちが相談に来ていることです」と川口さん。「ネットカフェ難民」という言葉が定着したが、パートやバイトをクビになり、ネットカフェにもいられなくなった若者が出てきたというのだ。
「誰もが何度でも、やり直せる社会は作れる。」
「Homedoor」の報告書の表紙にはそんな川口さんの静かな決意が書かれていた。
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