14歳の時に、あいりん地区での「炊き出し」の手伝いに行ってみた。おっちゃんたちの話を聞いていて、そんな「自己責任論」は吹き飛んだ。もともと貧困家庭で育ち、中学もろくに出られずに、日雇いで働き続けてきた人も多かった。「中学生ながら、自己責任で片付けようとしていた自分を反省しました」と川口さんは振り返る。
そんな時、姫路市で事件が起こる。足の不自由なホームレスの男性が寝場所としていたテントに火炎瓶を投げ込まれ焼死したのだ。しかも逮捕された少年のひとりは同じ歳だった。
自分だからこそ、できることがあるはずだ。
川口さんはまず、路上生活者の問題を伝える活動を始めた。学校の全校集会で時間をもらい、生徒に呼び掛けた。だが反応は今ひとつだった。そこで新聞も作った。炊き出しのボランティアや、ワークショップなども行った。
高校2年生の時には「ボランティア親善大使」に選ばれ、米国のワシントンDCで開かれた国際会議にも出席した。「そこで話をした海外の子たちのレベルは格段に高かった」。川口さんはあいりん地区の研究などに実績のある大阪市立大学で労働経済学を勉強することに決めた。その傍ら、NPOを立ち上げたのだ。
路上生活から脱出するには何が必要か。まずは定期的にお金を稼げる仕事が不可欠だ。空き缶集めではその日暮らしで、脱出は不可能だ。
そこで始めたのがレンタサイクルの「HUBchari」。ビルやホテルの軒先に自転車を置かせてもらい、シェアサイクルの運営を始めたのだ。今ではドコモ・バイクシェアサービスと提携し、230カ所に「ポート」を置き、約1000台で利用できるサービスになった。
「Homedoor」がおっちゃんたちを雇い、自転車の整備や電動自転車のバッテリー充電・交換などの作業を任せている。自転車を適正台数「ポート」に配置するのもおっちゃんたちの仕事だ。平均して10人から20人の雇用を生んでいる。
川口さんやスタッフは大阪市内の大手企業を回り、「軒先貢献」をキャッチフレーズに「ポート」の設置をお願いして歩いた。ここ数年は海外から日本にやってくるインバウンド客の手軽な移動手段として利用されていた。