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2020年12月30日

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磯山友幸 (いそやま・ともゆき)

ジャーナリスト

千葉商科大学教授(4月から)。1987年日本経済新聞社に入社。フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長などを務め、11年に独立。著書に『2022年、働き方はこうなる』(PHPビジネス新書)など。

【川口加奈(かわぐち・かな)】 
認定NPO法人Homedoor理事長。1991年、大阪府生まれ。14歳でホームレス問題に出会い、活動を開始。19歳でHomedoorを設立。新著に『14歳で〝おっちゃん〟と出会ってから、15年考えつづけてやっと見つけた「働く意味」』(ダイヤモンド社)。 (写真=湯澤 毅)

 ホームレス状態から脱出したいと思った〝おっちゃん〟に、選択肢を提供できたらと考えているんです」

 大阪市で認定NPO法人「Homedoor」を運営する川口加奈さんの語り口は穏やかだ。住む場所を失って路上で生活する人たちに、簡単な仕事や一時的な居場所を提供し、路上生活から脱出するきっかけを作ってきた。大学2年生の時にNPO法人を立ち上げ、理事長になって10年になる。

 今の日本を、「本当に敗者に厳しい」「どんどん転落してやり直しが効かない社会」だと言う。だが、それを声高に批判するでもなく、国や役所を糾弾する言葉を並べるわけでもない。

 現場で数多くのやるせなさを感じたためなのか。目の前のおっちゃんと向き合う時も、押し付けがましいことは言わない。気負いがなく、とにかく自然体だ。

 北区にある「Homedoor」の事務所には行き場を失ったおっちゃんたちが相談にやってくる。これまで相談に乗った人はのべ2000人。事務所の上の階には18室の個室があり、2週間無料で宿泊できる。その間に仕事を探したり、生活保護や年金受給の手続きをし、路上生活との縁を切るサポートをするのだ。

事務所で団欒する川口さんと相談者(写真=Homedoor提供)

 「いつの間にかいなくなってしまうおっちゃんもいます」と川口さん。親身になって相談に乗っていても、わずかばかりのお金を手にしたとたん、姿を消してしまうおっちゃんも珍しくない。「Homedoor」をきっかけに路上生活から脱出して普通の生活に戻った人もいるはずだが、あえて追跡もしないので、どれだけ大きな成果を上げているのか、あまり実感はない。とにかく、目の前にやってくるおっちゃんたちの話を聞く。

通学の電車から見えた風景

 川口さんがそうした〝おっちゃん〟の存在に気がついたのは中学生の時。電車通学で大阪・新今宮の駅で乗り換えていた時のことだった。駅の南側は「あいりん地区」と呼ばれ、多くの路上生活者が住んでいた。電車の窓からは、炊き出しでもらえるおにぎりを求めて並ぶおっちゃんたちの姿が見えた。

 友達の多くも、大人たちも、そうしたホームレスの存在を気にも止めない。「きちんと勉強もせず、仕事もしなかったからああなった」「自己責任、自業自得」そんな声が圧倒的だった。

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