2024年11月22日(金)

Wedge REPORT

2020年11月19日

 内航海運でオペレーターを担う日鉄物流は、この実習費用を負担する取り組みを始めた。内航海運本部・安全・船舶管理部長の大町誠一郎さんは「弊社にある200隻のうち自社船は6隻しかない。パートナーである船主さんを支援できないか検討してきた」と話す。さらに実習終了後、6級受験に必要な6カ月の実習を行うための実務型練習船「れいめい」を竣工し、5月から運用を開始した。

 既存の学校でも新しい動きがある。一昨年、創立120周年を迎えた広島商船高等専門学校。広島県の大崎上島に所在し、元々は地域が海運人材を育成するためにと、「13カ町村組合立芸陽海員学校」として創設された。商船学校は長らく外航船員の養成を担ってきたが、70年代以降、円高などによって日本人船員の賃金が相対的に上がってきたことから、外航船員は外国人が主流となった。その過程で全国に5校ある商船高専の定員も減り、船員養成課程出身者でも陸上勤務の仕事を選ぶことが増えた。

 広島商船高専校長の辻啓介さんは「定員が減らされたことで、志願者も減った。そこで、中学校への訪問を増やすとともに、内航各社にも『商船学校は外航船員養成』というイメージを変えるべく訪問を重ねた」。こうした努力の結果、00年では商船5校の卒業生のうち内航への就職者は12人だったが、19年には75人まで増加した。

船主たちが進める
業界の構造改革

 新規の船員は増えつつあるが、就職後の定着率に課題が残る。公式な統計はないが、3年以内に辞める新規就業者は少なくないという。そうした意味では、雇用する船会社側での職場環境や労働条件の改善も重要になる。

(出所)国交省資料を基にウェッジ作成
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 荷主、オペレーター、船主という業界構造のなかで、船主は8割以上が2隻以下の保有という小規模事業者が多い。このような中で注目されるのが、船舶の「所有と管理」の分離だ。船員の雇用を含めて、船舶管理会社(配乗管理、船舶保守管理などを行う)に船舶管理業務を委託し、経営効率を高めるというもの。業界に先駆けてこの仕組みを取り入れたのがイコーズ(山口県周南市)だ。自身も山口県防府市の小規模船主だった藏本由紀夫さんを含む5人の船主が発起人となって設立した。00年のことだ。

 「所有と管理を分離させるのは時代の流れだと思った。他人の財産(船舶)を預かるので信用が大事。効率化に加えて船舶管理業務の見える化などを徹底した」と振り返る。現在イコーズが管理する船舶は21隻、雇用する船員は155人に上る。複数の船舶があれば、船員同士の相性によって組み合わせを変えることもできる。船舶の所有と管理の分離は、船員にとっても好ましい取り組みだと言える。

 さらに船舶を大型化すれば船室が広がり、労働環境が改善されるほか、人員の省力化や運賃を下げることもできる。あるオペレーター会社の幹部は「大型化には荷主の協力も必要」と話す。荷を受け入れるバース(岸)が大きくなければ、大型船は着岸できないからだ。必要ロットに差があるため、全ての船を大型化ができるわけではないが、積荷の種類によっては可能だろう。


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