Wedge REPORT

2020年11月19日

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 日本の物流の大動脈である内航海運が船員不足で危機に瀕している。内航船は国内貨物の輸送活動量(トンキロ)で全体の43.7%、産業基礎物資(鉄鋼、ケミカル品など)は87.6%、平均輸送距離は505キロでトラックの約10倍におよぶ。一方で船員数はこの40年間で7.1万人から2.8万人にまで減少した。

瀬戸内海の要衝で船舶の往来が活発な「来島海峡」 (MASATAKA NAMAZU)

 ある業界関係者は「これまで船員不足は、定年延長などで先送りできていた。そのため業界内で『船員不足』を言えば、〝オオカミ少年〟の扱いを受けてきた」と話す。しかし、「船員の引き抜き」や「予定していた船が運航できない」など状況は悪化する一方だ。60歳以上の船員は、この9年間で3902人から6024人まで増加しており、定年延長も限界に近づきつつある。

 物流に支障が出れば、経済活動はもちろん、日常生活にも支障をきたす。内航船員の不足問題にどう取り組むべきか、現場を取材した。

3カ月間勤務、1カ月間休み
特殊な勤務形態

 海の町、広島県尾道市。瀬戸内海が一望できる千光寺の裏手にある尾道海技学院。ここでは「尾道海技大学校」として陸から海への転職を目指す社会人を対象に6級海技士免許(総トン数500トン未満の船舶で職員になれる)を取得するための講座が開かれている。2カ月半の座学と、内航船員不足に悩む船主(オーナー)が船舶を提供して2カ月間の実習が行われる。受講生の多くは20~30代だが、岡田啓介さんは62歳。「親戚の船会社は砂利運搬船1隻を5人で動かしているが、人手が足りないと聞き、市役所を定年退職したのを機に船に乗ることにした」。

 なぜ、船員は不足するのか。国際貨物を運ぶ「外航」では、外国人船員が採用されているが、国内輸送の内航の場合、自国船籍に限るという「カボタージュ制度」が世界各国で採用されている。有事の際に日本船籍であれば海上運送法に基づいて「航海命令」を出して、国が物資の輸送を命じることができるなど、危機対応を担保するためだ。カボタージュ制度と直接的な関係はないが、船員に関しても1966年に雇用対策から「日本人船員に限る」との閣議決定が現在も継続されている。

 次に特殊な勤務形態や労働環境が影響している。勤務は3カ月連続して働き、1カ月休むというパターンが多く、船舶という空間のなかで限られた人と長時間過ごすことになる。国土交通省が行ったアンケート(2016年)によると退職理由として最も多いのが、この「人間関係」。月収では37.1万円と、30.7万円の陸上労働者平均を上回っている(17年)が、長時間の重労働に対して割に合わないという声が少なくないという。

 内航船員の養成機関としては国交省系の「海上技術学校・短大」、「商船系高専」、「商船系大学」などがある。新たな取り組みとして注目されているのが、冒頭で紹介した尾道海技大学校だ。約310社の船主・運送事業者(オペレーター)・海事関係者が「海洋共育センター」を組織して、尾道海技学院と協力して、民間の力のみで海技資格者の即戦力を輩出することを目的に09年に設立された。以来、10年間で航海士・機関士合わせて約500人が内航船員として就職している。

 海洋共育センター事務局主幹の向井邦昭さんは「社会人を経験した人が退路を断って、80万円ほどの自己投資(授業料、宿泊料など)をして参加しているので覚悟が違う」と話す。実習船では、将来乗船したい船舶の希望(就職する船会社)を聞くなど、ある意味での就職マッチングを行っていることもあって「就職後の定着率が高い」(同)ことも特徴だ。尾道海技学院会長の宗重好夫さんは「授業料について機関士養成などで一部助成はあるものの、航海士については自己負担。この負担軽減策も国策として検討してほしい」と指摘する。

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