技術進化への期待と
外国人船員の是非
船員不足の解消に寄与する可能性があるテクノロジー開発の動きもある。日本郵船などが主体となり、25年までに「自動運航船」の実用化を目指すというもの。携帯電話の4G/5G回線と衛星回線を用いて、自律航行機能と遠隔操船機能を統合したシステムで、離桟(りさん)から着桟(ちゃくさん)までの船舶運航を自動化させる。日本郵船グループのMTI船舶技術部門長の安藤英幸さんは「海運におけるオートパイロットの歴史は40年以上で、海事業界で積み上げてきたボトムアップが自動運航船につながった」と話す。同じく日本郵船グループで日本海洋科学・運航技術グループ長の桑原悟さんは「自動といっても船から人がいなくなるのではなく、実用化の際は船員の負荷を下げることが目的」と指摘する。
船員不足への対応策で最後の手段として残るのが外国人船員への門戸開放だ。日本語という言語障壁があるなど、否定的な声は少なくない。しかし、状況は変化しつつあると、商船三井出身で流通科学大学教授の森隆行さんは「これまで内航における外国人船員の登用はタブーとされてきた。受け入れの是非をすぐに決めるのではなく、外国人船員を受け入れたらどのような問題が起こるのか、議論することから始めるべき」と指摘する。船員不足が限界を迎えたときになし崩し的に外国人船員の受け入れを行うよりは、事前に想定し、備えておくことが欠かせない。
「この業界は、そもそも日本人にも知られていない」──。内航船業界の誰しもがそう口をそろえる。この状況を改善しようとする新規参入者もいる。海運業界の情報発信・課題解決を行うべく、三井物産を退職して起業したのがアイテックマリンの石川和弥さんだ。「ドイツ駐在から帰国後、内航の仕事を経験した。この業界は改善点が多いが、なくてはならない産業。人が集まる魅力的な業界にしていきたい」と言う。
一歩ずつではあるが、現場では船員不足に対応するべく、新しい施策が実行されている。成果が出始めるのはこれからだが、官民挙げての構造改革が着実に行われつつある。一方で、船員不足の問題に対して、我々国民も関心が薄かったことも事実だ。これに限らず、今後日本のいたるところで、人手不足、高齢化といった構造上の疲労が顕在化してくる。一業界の特有の問題ではなく、日本全体の問題だと認識すべきだ。
写真=生津勝隆
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