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2020年11月5日

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樫山幸夫 (かしやま・ゆきお)

元産經新聞論説委員長

元産經新聞論説委員長。政治部で中曽根首相番、竹下幹事長番、霞クラブ(外務省)詰め、ワシントン特派員、同支局長、外信部次長、編集局次長、正論調査室長兼論説委員、産経新聞社監査役を歴任。2度のワシントン勤務時代は、ホワイトハウス、国務省などを担当、米国の内政、外交など幅広く取材した。

 混乱を極めた米大統領選は、法廷で決着がつけられる見通しになってきた。

 どちらが勝者になるかにかかわらず、今回の選挙は、超大国アメリカが、ほんとうにわれわれが知っている通りの国なのかーという強い疑念を呼び起こした。

 「自由」「民主主義」という建国以来、この国がよって立つ理想、基本的な価値観に、今回の選挙が全くそぐわないものであったことが如実に示された。

 アメリカは日本と同様、いやそれ以上に「本音」と「建て前」の国のようだ。

4日、アリゾナでトランプ支持者が集会を開催した(AP/AFLO)

世界の〝視線〟への懸念

  米CNNテレビは5日、民主党のバイデン候補が勝利をほぼ手中にしていることに触れながらも、現職・共和党のトランプ大統領に対し、外国人嫌いでメディアを憎悪する「子供じみた大統領」と罵倒に近い激しい言葉を連ね、その〝退場〟への期待感を表明した。

 そのうえで、うそをつき通し、規範を破壊して権力の象徴であるホワイトハウスを冒涜する大統領を、半数のアメリカ人が支持した事実を世界の人々はどうみるかーと恥辱に満ちた懸念を強く示した。

 こうした見方は決して厳しすぎるとはいえず、日本の一部メディアも、今回の選挙が「アメリカの価値観を損なうことへの危機感を(米国内で)広げている」(NHKニュース)と報道じた。

人種差別、問題ではない?

 興味深いデータがある、NBCテレビが3日の投票日、それに先立って期日前投票を終えた米有権者を対象に行った出口調査だ。

 候補者選びで重視する政策は何かについての質問で、「人種差別解消」が20%、「コロナ対策」17%に対して「経済」が35%にのぼった。犯罪対策は11%だった。

 経済が有権者の関心の中心であるのは理解できるとして、警察官による黒人への暴力的な取り締まりが相次ぎ、抗議運動が高まりをみせているなかで、人種差別解消への期待が2割というのは、やや意外な感じを受ける。

 類似の質問で、「人種差別解消は重要な政策と思うか」との質問では、「最重要が」20%、「重要政策のひとつ」51%、「大きな問題ではない」「全く問題ではない」がそれぞれ17%と9%。

 重要さにおいて、他の問題と同様程度にすぎないと考えている人が半数、問題にもしていない人が4分の1を超えているのにも驚かされる。

 候補者に期待する資質を聞いたところ、「強いリーダー」を求める声が32%でトップ、「判断力」が23%、「国を団結させることができる」は19%で、分裂社会の修復への期待はそれほど高くないこともやや予想外というべきか。

 反面、両候補について、大統領の職務を十分に果たせるだけの肉体の健康、精神の健全さを保っていると思うかとの質問では、トランプ氏にイエスと答えた人はわずか38%にとどまった。そういう人に超大国のかじ取りを委ねて不安ではないのか。バイデン氏も43%にとどまり、それほど高くはなかった。

 こうした調査結果をみるにつけ、自由と民主主義や正義、人権などアメリカの朝野が重きを置いて追求、ときに他の国にも押し付けようとしてきた価値観に対して、アメリカ人の興味、関心はわれわれの想像以上に弱くなっているようだ。 

 これを「ホンネとタテマエ」といわずして何といおうか。米国人はしばしば、この表現を用いて、日本人、日本社会を揶揄するが、自らの姿を省みることも必要だろう。

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