2023年1月31日(火)

シルバー民主主義に泣く若者

2012年8月9日

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島澤 諭 (しまさわ・まなぶ)

関東学院大学経済学部教授

富山県生まれ。1994年東京大学経済学部卒業 同年4月経済企画庁入庁。調査局内国調査第一課、総合計画局計量班、調査局国際経済第一課等を経て2001年内閣府退官。02年秋田経済法科大学経済学部専任講師、04年10月秋田大学教育文化学部准教授。15年4月から中部圏社会経済研究所研究部長を経て、22年4月より現職。

デフレ、海外との競争、社会保障負担の増大も原因に

 次に、現在日本は実質的には1990年代後半から続くデフレーションに苦しんでいるが、このデフレも、企業の売上の減少という経路を通して、雇用を減少させることになる。実際、経済学では物価変化率と失業率の間にはマイナスの相関関係が存在するという「フィリップス曲線」という経験則が存在することが知られているが、これは現在の日本にも当てはまる。

 また、現在様々な分野で中国や韓国等新興国との激しい競争が展開されており、日本企業の劣勢が報じられている。世界に名だたる大企業でも、事業の再編成や、国内生産拠点の縮小が行われている。こうしたことが直接雇用の減少をもたらすのは明らかだ。また、今後の事業規模維持に悲観的な企業が増えれば将来的な人員採用計画も下方修正されることになり、雇用の削減につながる。

 さらに、少子化、高齢化の進行による社会保障負担(雇用主負担)の増大も雇用維持にはマイナスの影響を及ぼす。結局、社会保障負担の増大は、政府との税・社会保障負担、サービスのやり取りを通じる経路と、雇用を通じる経路の2つから世代間格差を拡大させる方向に働いていることが分かる。

景気低迷期に就活を行う若者へのしわ寄せ

 これらの短期的・構造的な要因が雇用(イス)を減少させるのは、売上を直ちに減少させたり、将来の減少を想起させるところが大きい。売上が減少してもコストがそれまでと同程度であれば、利益が減少してしまう。つまり、景気が悪化し企業の業績が悪化すると、利益の減少、場合によっては赤字の縮減を図るために、コスト削減を行うこととなるのだが、コストの中でももっとも大きい割合を占めるのが人件費である。

 したがって、そもそもの原因が売上の減少であっても、高齢化に伴う社会保障負担の増大であっても、内外企業との競争激化であっても、企業にとっては、存続のためには人件費の抑制が喫緊の課題となり、法制度的にも金銭的にも解雇しやすい非正規労働者や、そもそも社員でも何でもない新卒者が対象となってしまう現状がある。たまたま景気が低迷する時期に就職活動を行うことになった者にしわ寄せが及んでしまうことが、これまでの日本では繰り返されてきたのだ。

 ただし、平成のある時期までは不況が長期化することは稀だったので、新卒無業者の問題はあまり大きくはならなかったが、1990年代後半以降の景気低迷の長期化、新興国の勃興により社会問題化するに至った。こうした事態を受けて、2010年10月、政府は、高校・大学卒業後3年間は「新卒」枠で採用することを日本経団連等の業界団体に要請し、その後、トヨタ自動車や三菱重工業、高島屋等の大企業が今年の採用から「卒業後3年間を新卒扱い」とすることを発表した。結果がどうなったかは今後明らかになっていくだろうが、半歩前進と言えよう。


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