カナダのバンクーバーにある鉱山会社NTC(North American Tungsten)のスティーブン・ラヒー社長は、新しい休暇制度を考え出した。3カ月間坑道に入って休みなしで働いて、次の3カ月は休みにしたのである。世界でも有数の規模を誇るNTCのタングステン鉱山は、北極圏に位置するため、労働者の確保は至難の業である。そこでラヒー社長は、働く時は徹底して働き、休みになったら街に戻って家族と一緒にリゾートライフを楽しむという生活を推奨した。
これが喜ばれて、鉱山経営は上手くいき始めたという。1年のうち、正味の勤務日数は年間170日前後で鉱山では特にやる事もないので、(個人の選択制で)土日も毎日12時間働いてもよい制度にした。だから年間の労働時間は2040時間にもなる。仮に8時間労働に換算すると255日相当も働いていることになるから、全員が高給取りである。特に、労働と休日にメリハリの付いたライフスタイルを望む若い労働者から支持された。
年間半分が休日だと、日本人であれば持て余す人が少なくないはずだ。欧米と日本とでは、労働観に違いがあることが原因の一つだ。欧米では「労働は苦役である」という考え方から、できるだけ休みを取りたいという人々が多い。だが、日本人の労働観は違う。仕事を持てることが人生を豊かにできるという考え方である。仕事こそ喜びであり、欧米のような「ハッピーリタイアメント」と違い、退職することは社会から用無しになったと考える人々が多い。日本人にとって休日は、あくまで働くために休む時間であって、長すぎるゴールデンウィークのような休日が時に苦痛になるのはそのためだ。
一方で、日本でも働き方の多様化は進んでおり、わが社でもその傾向はある。例えば1年の半分を海外出張に使っても、事務所との連絡は24時間出来る体制になっているから、仕事の効率化は進む。ところが、年中メールをチェックしなくては心配になってくる。これでは労働の多様化ならぬ、ネットへの隷属化ではないかという気がしなくもない。会社に出勤する頻度が減少しても、情報の共有による仕事への拘束度合いが実質的に増加し、労働時間も同様に増加している。
仕事と休暇から見る権利と義務
日本の一般サラリーマンの休日は、年間では平均133日。これは国際平均からすると多い部類に入るらしい。年間3分の1以上は休暇である。ただ、外国人の目には、日本人の休日の決め方や使い方は、奇異に映っているようだ。わが社の外国人社員に言わせると、せっかくの休日もダラダラ過ごしているだけのように見えるという。日本人は休日を楽しむというよりも、決められた休日に周囲が休むことに合わせて休んでいるだけだからだろう。