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2020年12月28日

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中西 享 (なかにし・とおる)

経済ジャーナリスト

1948年岡山県生まれ。72年共同通信社に入社。88年から91年までニューヨーク特派員、経済分野を取材し、編集委員を経て2010年に退社。現在は経済ジャーナリスト。著書は「ジャパンマネーの奔流―ニューヨーク・東京・ロンドンの24時間」(1987年、ダイヤモンド社)、「日本買い 外資は何を狙っているか」(2005年、PHP研究所)など。

 コロナ禍の終息が見えない中で、マンション販売が今年の夏以降、好調さを維持している。全体の景気は悪化しているにもかかわらず、なぜ、マンションの販売が伸びているのか、来年の見通しも含めて専門家3人にインタビューした。1回目はマンション販売のコンサルタント、さくら事務所の長嶋修会長。

(Moarave/gettyimages)

Q コロナ禍の深刻化によりリモートワークが増えて、郊外への移転や地方移住が進むのではないかとみられていたが、トレンドにならなかった理由は何か

長嶋会長 4月に緊急事態宣言が出されたころは、一時的に郊外や地方移転が増えたかに見えたが、宣言が解除になるとまた元に戻った。一部、熱海のワンルームのリゾートマンションなどが買われたが、実需ではなく、投資用やセカンドハウスとして購入されたものだ。コロナで仕事を失ったり退職を迫られたりした弱いところの人たちは大きな影響を受けたが、都心に住んでいるような人の状況は変わっていない。不動産は一時的に資金が足りないからといって、売ったり買ったりするものではないので、超低金利で潤沢な資金がある中では、今回のコロナ禍は住まいの場所を大きく変える要因にはならなかったと言える。

Q コロナ禍での販売状況はどうだったのか。

長嶋会長 4~5月の取引件数は前年比40%~50%ぐらい減少したが、6月から戻り始め、7~9月は減った分を取り返して余りあるほど取引件数が増えた。増えた理由の一つは、株価が一時的には急落したが、その後は戻して、現在は2万6000円台と堅調に推移していることが挙げられる。リーマンショックの時のように金融システムが破綻したときは、マンションの投げ売りが出たりしたが、今回はそういうのは全く起きなかった。

Q 全体的には残業手当などが減少したのに加えて、冬のボーナスが出ないとか勤労者世帯の所得が減っている。となると住宅ローンをボーナスで支払っている世帯は苦しくなり、せっかく買ったマンションを手離さざるを得ないような事態にならないか。

長嶋会長 90年代後半のバブル崩壊、リーマンショックの時と違うのは、金融庁が「金融機関は住宅ローンの支払いが厳しい人に対して相談しなさい」という通達を出していることだ。10年払いのローンを25年に延長するとか、当面は元本の支払わなくても利子払いだけにするとか、柔軟に対応するよう指導しているので、マンションを手離すというようなことにはならない。これはローン支払いの先延ばしでしかないのだが、当面は住宅ローンを持ちこたえられる。

Q 来年の首都圏マンションの販売状況はどうなるか。

長嶋会長 2000年代前半のピークは首都圏のマンション発売戸数は8万戸あったが、2年前に3万7000戸に減少、昨年は3万1000戸で、今年は3万戸を切るだろう。来年もその延長線上で2万戸の中後半くらいだろう。発売戸数は減るが、都心、駅近、大規模タワーの割合が高まりながら縮小均衡の市場になりそうだ。新築が抑えられる分、中古市場に行くと考えられるので、中古市場も調子が良くなる。価格的については高止まりどころか、一段高もあるのではないか。7000万円のマンション価格が7500万円になるというのではなく、より立地が良くて高いものが増えて、安い物件が減るのではないか。

 タワーマンションは一部のマスコミで人気がないように書かれたりするが、一般的な人はそうは思っていないので、引き続き需要があるのではないか。東京オリンピックの1年延期で入居が1年遅れた、東京・晴海の大規模マンション「晴海フラッグ」は、周辺にあるマンションと比較すると割安なこともあり、来年以降の販売は良くなるのではないか。ちょうど2000年代前半に湾岸のタワマンを購入した世代では、子供が大きくなったり、増えたりして部屋が手狭になっている層にとっては良い買い替え物件ではないか。間取りはかなり広いし戸数も多く、都心利便性を求めるならば、オリンピック開催に関係なく、一定のニーズにある商品になっている。

Q コロナ禍の長期化で都心のオフィス空室率が上がっているが。

長嶋会長 コロナ禍前は渋谷など1%台で空室がない状態だったが、いまは3~4%のようだ。渋谷はIT系の企業が多いので家賃が高くなり、恵比寿や五反田に移る傾向もあったが、渋谷に空きが出てくれば、また渋谷に戻るかもしれない。丸の内や大手町は変わっていない。5%前の空室率であればそれほど心配することはないのではないか。銀座でいうと、4丁目交差点の周辺はそれほど空室もないが、少し裏に入った古いビルだと出ていくテナントが増える。オフィスでもマンションと同様に、弱いとこはますます弱くなる傾向がある。

 オフィスの賃貸契約は5年で長期契約なので、在宅勤務が増えたからと言って途中で契約を解約すると違約金を取られるため、すぐには移れない制約がある。在宅リモート率が30%に定着しても、5年かけて徐々に移っていく感じで、オフィスは感染拡大を警戒して「密」を避けるので、需要は思いのほか減らないのではないか。リモートワークが半分になっても、オフィスは半分も減らないだろう。

 一方、インバウンドが激減したのでホテルの新築は皆無だ。その分、ホテルの新築用地にしようとマンション用地を奪い取ってきたのが立てられなくなり、立地の良い場所でマンションが建つ可能性がある。

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