すり鉢状で坂の多い長崎市の特殊な地形に、賃貸アパート経営をする不動産投資家がいる。不動産業界で言うところの誰も手を出したがらない「ボロ(築古)物件」と呼ばれる中古住宅を格安で購入し、これをリノベーションして賃貸住宅・アパートにして賃貸収入を得るというものだ。既に長崎市内の約500世帯がこの投資物件に入居しているそうで、脇田雄太氏に狙いを聞いた。
中低所得者住宅を狙う
長崎には縁もゆかりもなかったが「自動車の入らない階段の上に住宅が建っているのを見て、この特長を活かせば少ない投資額でアパート経営ができるのではないか」と思った。長崎県は全国の県庁所在地の中で可処分所得ランキングが下から数えた方が早いくらいに低いため、低中所得層の人たちが入居できる賃貸住宅の需要は必ずあると確信した。そこで、階段の多い場所に建っている「ボロ物件」を安く購入して、低中所得用の賃貸物件を提供した。
長崎に投資するきっかけは、大阪の自宅を新築していて、建築の面白さにはまってからだという。「リクルート在職中に大阪府内の中古マンションを1棟丸ごと購入して賃貸マンションにしてうまくいったことで不動産投資の魅力に引き付けられた。少ない投資額で中古物件を購入し、リフォームして所得の低い人でも借りられる家賃の安い賃貸住宅を作れば、投資する側も入居する側もハッピーになれるのではないかと思った」という。
脇田氏の見立ては、長崎県全体の人口は減っていても、路面電車が走っているような長崎市内中心部はほぼ横ばいか微増なので、人口減少がこのビジネスに影響を与えているとは思っていない。長崎市の人口は41万人(今年12月1日現在)あるので、低中所得者用の賃貸住宅需要が減ることはないとみている。
入居率高く安定収入
「現在、約500世帯が入居しているが、入居率は95%で極めて高く、投資した人も安定的な家賃収入に満足してくれている。私が所有しているのが中古賃貸住宅・アパートは90世帯で一戸建てが多い。残りの約400世帯は私の投資手法に賛同してくれた投資家が持っており、賃貸戸建・アパートが併存している」と賃貸ビジネスの現状を話す。
戸建ての場合は広さが80~120平方メートルと割と大きめで、アパートの場合は20~50平方メートルと小ぶりだ。家賃は戸建てが月額4万~6万円、アパートが3.6万~4.7万円くらいの賃料にはなる。
長崎市内で階段の上に建っていた築35年のボロ戸建を土地・建物合わせて50万円で購入、これに300万円程掛けてリノベーションし、建物を綺麗にして家賃月額6万円ほどで貸し出せば、約5年で投資額は回収でき、投資額に見合った家賃収入が得られる計算で、利回りが20%程度の安定資産を構築できるという。
借りる側も、広くて安い住宅に住めるのなら階段の上の住宅でも良いことから、わざわざ便利な平地に住んでいた人がこうした物件に移り住むことも多い。ペットを飼っていたり、小さな子供が何人もいて近所迷惑を気にしなければならない世帯が、広々住める中古の一戸建て賃貸を好むケースも少なくない。
不動産賃貸業を行う上で滞納リスクはつきもので、入居時の書類選考・連帯保証人の設定・家賃保証会社への加入・顧問弁護士との契約など、対策は取っている。低価格帯の賃貸物件だからと言って特段にリスクが高いわけではないそうだ。
現在の投資者の数は約150人。関東が5割、関西が3割5分、残りの1割5分がその他の地域に住んでいて、脇田氏が出版した著書に賛同して投資してくれているという。大半の人は物件購入時とリフォーム完成時に長崎で物件を現地確認するのみで、後は悠々自適に遠隔投資を行っているそうだ。
年代は20代から70代までで、多いのが30代から40代の男性。投資額は500万円から1000万円が多く、中には億円を超える投資をする人もいる。ローンは組まずにキャッシュのみで、投資する狙いは副収入稼ぎが中心。数十万円の少ない投資額からでも始められるので、不動産投資初心者から、プロの人まで様々だ。
脇田氏は「地元の不動産業者から紹介してもらった物件の中から良い物件を選んで投資している。長崎にも自宅があり、月のうち半分は長崎、半分は大阪に住んでいる。今も毎月50軒から100軒の物件を長崎市内で見ており、その中から投資するにふさわしい物件を見定めている」と、どの物件が投資に見合うかの目利きが一番のポイントだと説明する。