Wedge REPORT

2019年12月17日

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イラスト:マグマ・ジャイマンツ

 「新築信仰」という言葉があるように、日本人の多くが「新築」の持ち家を購入してきた。しかし、それは日本人の「好み」ではなく、国の政策や商慣行、そして自治体の都市計画もまた、住宅市場に大きく影響する。

 消費者の持ち家信仰と人口を増やしたいという自治体の思惑が一致して、郊外へと町を広げてきた。人口が減少局面に入ったことで、そのインフラを維持することが困難になると予想されている。そこで、町を集約すべく「コンパクトシティ」を打ち出す自治体が多い。

 都市計画区域内において開発が抑制される「市街化調整区域」の厳格運用に舵を切り始めたのが和歌山市だ。17年4月から、小学校など公共施設付近を除いて、原則開発を制限することを決めた。それまでは、市外への人口流出が顕著だったため、農地から宅地への転用緩和を続けてきた。「住居が郊外までバラバラと建ち続ける状況だった。町をコンパクトにすると言いながら、ずっと郊外の開発を許してきた。行政は一貫せねばならないのでは、という思いから厳格運用を決めた」と市の担当者は語る。

 一度緩めたベルトを締めなおすのは大変だった」うえに、反対の声も相次いだ。宅地業者からは「安い値段で開発できるのだからやめてほしい」、住民からは「土地利用の自由度を下げることは困る」などの声があがった。担当者は和歌山市だけでなく、社会全体の人口減少の構造から丁寧に説明することを心がけて説得したという。

 都市部でも新築抑制の動きが出てきた。神戸市では20年7月より、中心部の三ノ宮駅周辺の約22ヘクタールで新築を禁止し、元町駅や神戸駅周辺の約292ヘクタールでは、新たに建設する住宅部分の容積率を400%に抑え、実質的にタワーマンションの建設を禁止する条例を制定した。

 「人口減少の中で、ほかの都市を出し抜くとか、奪い合いをする発想で都市経営はすべきでない」と会見で語った久元喜造市長。同市はタワーマンションで人口増加の著しい川崎市に人口が抜かれたが、同様の人口競争を続けることから方向転換をした。

 もともと神戸市は、阪神淡路大震災以降、大阪に出て行ってしまった商業施設や企業の空き地にタワーマンションが建ち、中心部での居住人口が増加してきた。市の担当者によると、13年ごろから三ノ宮駅周辺を今後どのような街として位置付けるかを議論してきた。その中で中心部の居住性を高める方針が掲げられた。しかし、そこに至るまでにはタワマン建設によって災害時の避難場所が不足するなど、社会的なコストが膨れる可能性も十分に考慮して議論を重ねたという。

 その一方で、土地利用の規制を緩和する自治体もある。山形市では17年6月から市街化調整区域内で、住宅新築の規制を緩和した。市街地に隣接・近接する区域や、既存集落、駅を中心とする半径500メートル以内の区域などでの開発が可能となった。その結果、開発許可戸数は規制緩和直前の1年間の167件から、緩和直後の1年間では375件と2倍以上に増加した。

 背景にあるのが、市の人口増加施策だ。山形市では人口が19年10月時点の24万9000人から、50年には18万7000人へと減少が見込まれている。そこで市では「人口ビジョン」を掲げ、50年人口を30万4000人に目標設定。今回の規制緩和で、従来認めていなかった共同住宅の建築も一部地域で認めた。駅周辺や市街地に隣接した区域において開発需要が多いという。また宅地分譲も、地価が安い、面積を確保しやすいなどの理由で、広い農地に大きな住居を建てる動きもあるという。

 同市の担当者は、「人口を増やすために、まずは受け皿の整備が必要。市街化調整区域内でも、集落に近く既存インフラが整備されている地域を選定したので、新たな追加コストはかからない。開発地域も決めているので、虫食い的な開発も防げる」とする。市内の不動産業者を訪ねると、「学校やスーパーの近くの物件については、いくつか契約が決まっている」という。

 このように規制緩和をして開発需要を喚起し、人口減少に歯止めをかけたいという誘惑にかられるのは、何も山形市に限ったことではない。そうした誘惑や住民からの抗議に屈せず、前述の和歌山市や神戸市のように居住地を制限することは、首長の強い覚悟とリーダーシップが不可欠である。しかし、そういった自治体の行政担当者は、「居住区域とそれ以外の『線引き』はできても、実質的に強制力はないので、住民を意のままに移住させられるわけでもない」と頭を抱える。

 都市政策に詳しい筑波大学システム情報系社会工学域の谷口守教授は、「立派な計画を作成しても、無秩序な都市の拡散が続くということは、計画自体が重要視されていないということだ。コンパクトシティはカンフル剤のように思われがちだが、そのお題目のもと、中心地をかえって多く作ろうとしてしまう。人口減少のもと、競争して人口を増やすのではなく、広域的に周辺の自治体と協調して人口減少にどう対応するかという段階に入っている。その考えがない限り、今後も無秩序な開発は続くだろう」と語る。

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砂原庸介、中川雅之、中西 享、編集部
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PART 2      「好み」だけではなかった 日本人が”新築好き”になった理由
PART 3      米国の中古取引はなぜ活発なのか? 情報公開にこそカギがある
COLUMN  ゴースト化した「リゾートマンション」の行方
PART 4      中古活性化に必要な「情報透明化」と「価値再生」

  
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◆Wedge2019年12月号より

 

 

 

 

 

 

 
 

 

 
 

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