WEDGE REPORT

2019年12月19日

»著者プロフィール
閉じる

川瀬剛志 (かわせ・つよし)

上智大学法学部教授

上智大学法学部教授。専門は国際経済法。慶應義塾大学法学部卒業、ジョージタウン大学法科大学院修士。経済産業研究所ファカルティ・フェローも務める。著書に『WTO紛争解決手続における履行制度』『地球温暖化対策と国際貿易-排出量取引と国境調整措置をめぐる経済学・法学的分析-』(ともに共編著)。

(ロイター/アフロ)

上級委員会の現状

 世界貿易機関(WTO)発足からこの月末で満25年を迎えようとするこの12月11日、国際通商関係の法の支配を司ってきたWTO上級委員会が、ついに機能停止に陥った。下図のとおり、本来定数7人の上級委員のうち、2017 年6月末に退任したラミレス–ヘルナンデス委員以来、6人の後任を選任できずに今日に至っている。この12月10日に2人の上級委員の任期が切れ、事件の審理を行うのに必要とされる最低数(3人)を割り込んでしまった。

 

上級委員会とは?

 上級委員会は、WTOの「最高裁判所」である。WTO紛争解決手続は二審制を敷いており、一審が小委員会(いわゆるパネル)、そして二審が上級委員会である。パネルは紛争の当事国でない加盟国から専門家(WTO本部のあるジュネーブでWTOを担当する各国外交官、またはその経験がありジュネーブのコミュニティーで顔の知られた各国政府職員が選任されることが多い)が3人選ばれる。パネルは国内裁判と同じように、一審として事実認定および協定の解釈・当てはめの双方を行う。

 パネルは事件ごとに組織され、パネリストはその場限りの仕事になる。パネリストが異なれば、異なる事件のパネルで条文の解釈が一貫し、同じような案件で同じような判断が出るとは限らず、ばらつきが出るおそれがある。そこで1995年のWTO発足と同時にGATT時代の一審制に代えて二審制を導入し、上級委員会が設立された。上級委員会は紛争当事国から上訴があれば、一審のパネルが示したWTO協定の解釈・当てはめの適否を審査する。例えパネルの判断がばらついたとしても、上級委員会が統一的にパネルの判断を見直すことで、WTO協定の解釈の一貫性が保たれ、国際通商システムの安定性と予見可能性が確保される。ただし、上級委員会の役割はパネルの協定解釈・適用の適否を審査するのみで、パネルに代わって事実認定のやり直しは行えない。事実審を務めるのはあくまでパネルだけである。

 上級委員会は7人の委員で構成され、任期は4年、1回更新可能(通算任期8年)である。特に決まっているわけではないが、これまでは事実上米国、EUは席をそれぞれひとつずつ確保、あとはアフリカ、中南米、東アジア(日・中・韓)、その他アジア・大洋州(例えば印、豪、比など)からそれぞれ1~2人が選出され、地域バランスが保たれてきた。出自は外交官、裁判官、弁護士、法学者といったところが多い。

 日本出身委員は、歴代では松下満雄(東京大学名誉教授、弁護士)、谷口安平(京都大学名誉教授、弁護士)、大島正太郎(元・外務審議官、元・在ジュネーブ国際機関代表部大使)の各氏がいるが、2012年の大島委員の退任以降、しばらく日本から選出されていない。

関連記事

新着記事

»もっと見る