米中貿易摩擦が収まる気配を見せない。世界の二大経済大国の対立が、当事国だけでなく、世界経済に与える影響も大きい。
さらに、この対立の影響は景気の悪化にとどまらない。第二次世界大戦後築き上げられてきた世界の貿易の仕組みを破壊する可能性がある。米トランプ大統領は、多国間での取り決めを無視し、二国間でのディールに持ち込む動きをとりつつ、個別交渉を通じて、関税の引き上げ、技術移転や補助金の停止、農産物の買い増し、などの条件を次々とのませている。しかし、ある特定国に対する関税引き下げなどの優遇措置は、ただちにWTO加盟国全体にも適用されるという最恵国待遇の精神に、まったく逆行している。
この米国との交渉に、いまや世界第二位の経済大国である中国ですら、手こずっている。日本も含めたすべての国が、米国との取引、さらには国際取引において、安心して公平なルールのもとで発展できるという見通しが持ちづらくなっている。
多国間での取り決めの下、自由貿易を行える世界に戻すためにはどうしたらいいのか。これを考えるため、米国が非難する中国の問題について、整理してみたい。具体的な争点となっているのは、産業補助金の問題、半導体を中心とする技術覇権、データ取引のルールなどだ。そのうち、今回取り上げるのは産業補助金の問題である。
2019年5月、合意直前と言われた米中の貿易交渉が決裂した。この際、米国側は、産業補助金の問題を修正することについて合意に至らなかった、とコメントしている。具体的な内容は公開されていないが、おおよそ次のように想像できる。
まず、補助金として次の二つが想定されているようである。一つは、鉄鋼、アルミ、セメント、ガラスのような、いわゆる過剰生産能力を抱える産業の救済、そしてもう一つは、半導体を中心とする新たな技術の高度化にかかわる補助金である。
WTOの枠組みには、「補助金及び相殺措置に関する協定」がある。「補助金」とは、政府やその関連の公的主体から受け取る金銭・資産を指す。そして、その補助金が一般的・客観的基準がなく「特定」の企業に与えられ、それにより企業が「利益」を得て、その結果、価格を不当に下げるという「悪影響」をもたらしている場合は、協定違反となる。そうなると、当該国に是正を求めることができるし、相殺関税というかたちでの制裁を加えることも認められている。