2024年11月22日(金)

Wedge REPORT

2021年2月9日

 コロナ禍によって中小企業の休廃業が増加している。休廃業の要因は経済活動の低迷に加えて、後継者不在で事業継承ができないという問題があり、中堅・中小企業の独自技術・ブランドが継承されることなく消滅している。

 事業継承の手段の一つとなるのがM&Aだ。M&A総合研究所(東京都港区)は独自の企業データベースを保有し、売買したい中小企業に対していくつもの選択肢を即座に提供できるシステムを構築している。サイバーエージェントの関係会社でエンジニアをしていた佐上峻作社長によると「M&Aの世界では、売買先を営業担当者が足を使って探してくるということが一般的だが、どうしてもピックアップ漏れが出てくる。AIを使えばそうした漏れを減らせることに加えて、買い手が思いもよらなかった企業を提案するといった〝セレンディピティー(予期せぬ出会い)〟を起こすこともできる」という。

 日立製作所の半導体エンジニアだったシリアルアントレプレナーの加藤聖隆氏は、18年にエグジットした後、公益財団法人国民工業振興会(JIPA)のもとで日本の中小製造業のイノベーション実現を目的に「Landing Pad Tokyo(LPT)」を20年4月に立ち上げた。「20年近く仕事をしてきたシリコンバレーでは、短期間で結果を出すことが求められることに加え、起業家のエコシステムに入り込むことは現地に根ざさない日本の中小企業には敷居が高い。そんな時に出会ったのがカナダのトロントだ」。

 しかし、これから現地の大学やスタートアップと連携しようとした矢先に新型コロナが発生、互いの行き来や会合をすることができなくなった。ところが、トロント側でLPTの事業開発を担当する、現地に30年在住し政府認定会議通訳も務めるボンド・智江子氏は「オンラインで簡単にミーティングできるからこそ、コミュニケーションが活性化し国を越えた関係強化やビジネスマッチングが成功した」と話す。

改めて確認できる
直接人に会うことの価値

 スマートフォンなどに内蔵される半導体を載せるプリント基板の製造設備を開発製造するニッシン(兵庫県宝塚市)。半導体の小型化が進むなかで、同社のプラズマを使った加工技術は欠かせない存在となっている。国内外からの顧客が訪問しやすいようにJR新横浜駅からほど近い場所にR&Dセンターを設けて、顧客と議論を積み重ねながら製造設備の開発を行ってきたが、コロナ禍によって、頻繁な面談を断念せざるを得なくなった。

 武田恭祐・横浜R&Dセンター長は「これまでは対面が基本だったが、打ち合わせる内容によって会う、会わないを整理することができた。ただ、最後の最後、商品購入の段階になると対面でないと難しい」と話す。1台数千万円という製造設備の価格だけではなく、ユーザーごとに設備のカスタマイズも行うため、対面で微調整をしていく必要があるという。

 日本生命では対面することなく、保険契約の手続きを行うことができる「画面共有システム」の実用化に乗り出している。これによってコロナ対策になると同時に、遠隔地とのやり取りなど営業活動の効率化をはかることも可能になった。それでも「保険加入時だけではなく、お客様の状況にあわせてより適切なプランに見直すコンサルティング業務といったアフターフォローは対面での対応が大事で、それこそが我々の強みになる」と、松本秀吉・業務部調査役は指摘する。


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