こんなこともあったという。緊急事態宣言中に在宅勤務をしながらメールやLINEでコンタクトをとっていた顧客から9月頃に電話をもらい、「できれば会って話がしたい」と言われて訪問すると、婦人科系疾患で手術を受ける予定を打ち明けられた。「不安だったけど、会って話ができてホッとした。加入している保険から給付金が出ることもわかった。こういう話はやっぱり電話では話しにくかったので……」と言われたことで、対面の大切さが身に染みてわかったという。
同じく「最後は人」、と話すのは群馬県伊勢崎市と太田市を営業地域にするアイオー信用金庫の長谷川淳一理事長は「取引先企業の社長、社員の表情や雰囲気、工場の稼働状況など、実際に現場に足を運ばないとわからないことがたくさんあり、現場を五感で感じてくることが大事」と語る。コロナ禍によって、過去にないほどの新規融資の申し込みがあったが、これについても、対面を原則とした。もちろん、オンラインを否定するわけではなく、時間の節約になるなど、その効用も踏まえた上で、対面の重要さを強調している。
対面できなくても
イノベーションは起きるのか?
『野生化するイノベーション』(新潮選書)で、イノベーションがスティーブ・ジョブズのようなカリスマに紐づくだけではなく、「群生」したり「移動」したりすることを解き明かした早稲田大学商学学術院の清水洋教授は「人が直接対面したほうが、イノベーションは起きやすいのではないか」と指摘する。
「少人数で直接コミュニケーションをとったほうが情報の伝達がしやすく、その重要性を共有することができる。例えば、ノーベル経済学賞受賞者のケネス・アローは小さい組織のほうが〝新規性〟の高い事業に取り組むことができるとしている。
なぜなら規模の小さい組織のほうが情報伝達のロスが少ないからだ。まだ気づきの段階と言えるような新規性の高い発見は、言語化することができず、完全に伝達することができないため、多人数での情報共有は難しくなる。同じように対面とオンラインでは、対面のほうが情報伝達のロスが少ない。そういう意味で、新しい発見をイノベーションにつなげていくには、対面のほうが望ましいと言える」(同)
コロナ禍で多くの日本企業が苦境に立たされている。この苦境を脱するには国の政策に依存するだけではなく、自ら前例にとらわれない大胆な発想の転換やイノベーションが必須となる。感染対策を行いながら強い日本経済を取り戻すためにも試行錯誤が大事になる。新型コロナ=恐怖の図式にとらわれて全てテレワークではイノベーションは起きない。対面が必要な場合と、そうではない場合、この使いわけが、ウィズコロナのビジネスシーンでは重要なポイントになる。
■取られ続ける技術や土地 日本を守る「盾」を持て
DATA 狙われる機微技術 活発化する「経済安保」めぐる動き
INTRODUCTION アメリカは本気 経済安保で求められる日本の「覚悟」
PART 1 なぜ中国は技術覇権にこだわるのか 国家戦略を読み解く
PART 2 狙われる技術大国・日本 官民一体で「営業秘密」を守れ
PART 3 日本企業の人事制度 米中対立激化で〝大転換〟が必須に
PART 4 「経済安保」と「研究の自由」 両立に向けた体制整備を急げ
COLUMN 経済安保は全体戦略の一つ 財政面からも国を守るビジョンを
PART 5 合法的〟に進む外資土地買収は想像以上 もっと危機感を持て
PART 6 激変した欧州の「中国観」 日本は独・欧州ともっと手を結べ
PART 7 世界中に広がる〝親中工作〟 「イデオロギー戦争」の実態とは?
PART 8 「戦略的不可欠性」ある技術を武器に日本の存在感を高めよ
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