地元出身者の回帰の傾向
そうした中で、鹿児島市に移住する人が増えている。2019年度の同市への移住者は22人だったが、20年度(21年2月末現在)は63人と3倍近くも増えた。63人のうち、出身地を把握している33人の内訳をみると、鹿児島に縁のあるUターン(市内出身者)が約7割、Jターン(県内出身者)が約1割で、Iターン(県外出身者)が約2割。
「昨年度は、Uターン者が約4割、Iターン者が約6割となっており、今年度は鹿児島市出身者の地元回帰の傾向が顕著になっている」(室田久敏・鹿児島市役所企画財政局企画部移住推進室長)と指摘する。鹿児島市の魅力や生活環境に触れるため、一時滞在する際などに特典サービスを受けることができる「かごしま市IJU倶楽部」の加入者は2月末現在で54世帯115人と、これも増えている。
移住者が増えた理由について室田室長は「相談件数は昨年5月ごろから増えてきている。地方への移住に関心が高まる中で、自然の魅力があり、観光やビジネスで鹿児島を訪問して移住への興味がわくケースなどが多いようだ。テレワークが増加したことから地方でも大都市圏とつながって仕事ができるようになったことも移住が増えている要因の一つではないか。
移住に関心がある人に対しては、鹿児島市に一時滞在する際のホテルやレンタカー利用の特典サービスなどが受けられる『IJU倶楽部』という制度を設けており、これを利用してお試し移住生活を体験してほしい」と話している。
また就労支援については①ポータルサイト「かごしま市しごと情報ナビ」②移住支援金(移住・就業など支援事業)③クリエイティブ人材誘致事業④クリエイティブ産業創出拠点施設「mark MEIZAN」⑤鹿児島県ふるさと人材相談の紹介など、手厚いサポートをしている。
鹿児島市役所からの紹介で、首都圏から移住した2人に聞いた。コロナ禍の今年の1月に東京から単身女性で引っ越したのが吉満瑞貴さん(30歳)。鹿児島県指宿市の出身。仕事は個人や企業のホームページなどを作るウエブデザイン関係で、会社員をしながら1年ほど前から個人で製作する仕事を請け負ってきた。
移住を決めた理由は、「コロナ禍で東京にいても、都会暮らしを満喫できる機会が少なくなった。東京にいたくなくなったわけではないが、以前から30歳をめどに故郷の鹿児島に戻って仕事をしたいと思っていた。鹿児島で前と同じウエブデザインを個人で製作する仕事を見つけることができたので、コロナ禍が移住を決める最後の一押しになった。いまは移住を決断してよかったと思っている」と話す。
移住に際しては鹿児島市から引っ越し費用や交通費の補助が出るので申請をしたという。吉満さんの仕事は、パソコンさえあれば、仕事の発注者の場所と関係なく仕事ができるので、東京に住み続けなければならない理由はなかった。