2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2012年10月5日

 ドブ・ザケイム(元財政担当国防次官)がナショナル・インタレスト誌のウェブサイトに「岐路に立つイラク」との論説を8月28日付で寄稿し、イラクがマリキ首相のもとでイランの影響を強く受けた権威主義体制になってきていることを指摘しています。 

 すなわち、イラクのマリキ首相は総選挙の前倒しを示唆している。今年ではないとしても、来年始めには選挙になりそうだ。マリキが政権にとどまる可能性は高い。反対派は分裂しているし、マリキにはイランの支持もある。米はマリキの権威主義的統治を容認し、彼の邪魔をしていない。

 米は、イラクが民主主義に向かっていると引き続き主張している。そうではないと認めることは、オバマ政権がイラクから撤退したタイミングを疑問視することになる。オバマ政権は2011年の後も米軍を残せたが、地位協定で米軍の保護をしっかりさせることに十分に取り組まず、ごく少数の米軍しか残せなかった。イラクから出て行くことがホワイトハウスの関心事で、イラクの政治状況、イランの影響力などには関心がなかった。

 米は、今、こういうやり方の代償を払っている。米が去った後の真空はイランが埋めており、イラクはイランにとり益々重要なパートナーになっている。イラクはイランが制裁を逃れることを助けている。加えてイラクはシリアのアサドを支援している。オバマ政権もマリキが米の友人ではないと判ってきている。

 マリキは権力維持のためにどんな措置でもとるだろう。権力を失えば、裁かれることになり、前副大統領のハシェミ(国外逃亡中)のようになる。

 マリキのアサド支持はマリキにブーメランのように戻ってきかねない。シリアでの宗派間の戦争がレバノンやイラクに広がりかねない。そうなれば、マリキが選挙後政府を成立させるのは困難になる。

 イラクは岐路に立っている。再度の内戦の瀬戸際にあり、イランの支配者に支持された独裁者たりうる者により指導されている。米は民主主義をイラクにもたらそうとしたドンキホーテ的な試みの遺産が解体していくのを傍観しているだけである、と論じています。

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 この論説は、イラクが、当初米が考えたようには民主的な国にならず、マリキ首相のもとでイランの影響力の強い権威主義的な国になっていること、それについて米側の関心も低くなっていることを指摘しています。イラクについての記事が少ない中で、こういう論説は参考になります。


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