ペンギンの翼の形状が
理想の水流をつくりだす
ヘルシオ炊飯器の開発着手は2009年で、完成まで3年余りを要した。商品企画を担当したのは、調理システム事業部新規事業推進プロジェクトチーム係長の宮本洋一(43歳)。最初は「とにかく、おいしいご飯の炊ける」製品を目指した。かつて、営業支援担当などを経てマイコン式の炊飯器を担当したこともある宮本は、「温度にムラのない炊き方が一番おいしい」と、勘どころをおさえていた。
技術陣と協議を重ねるうち、温度ムラをなくすには釜の中に「直接、水流を与えること」との結論に至った。炊飯器では前例のないチャレンジである。着手当初の発想が面白い。洗濯機のように釜の底に水流を起こすユニットを置く方法も考えた。ユニットにはマグネットを付け、釜から脱着できるという方式だった。
しかし、電気の供給や回転の制御などを考えると底置きには無理があり、結果的にウィングを上ぶたに装着した。そうこうするうちに、事業部のトップからは新たなタスクが宮本らに言い渡された。「おいしいだけでなく、『健康』もキーワードにしてオンリーワンを目指そう」という指令だった。
「果たして、ご飯で健康がアピールできるのだろうか?」。当惑した宮本は、マーケティングの基本であるユーザーインタビューに力を注いだ。
東京と大阪で主婦を中心に延べ50人近くから意見を聴取した。結果、ほとんどの人が発芽玄米などを試したことがあるものの、家族からはおおむね不評だった。そこで、「むしろ白米で健康が訴求できるというコンセプトは受ける」と、手応えを得た。並行して研究部門では、米の表層にある栄養素やうま味成分の存在や、それが洗米で流出しやすいといった現象を発掘していた。そこから、洗米も炊飯器で行うという発想が生まれた。
ハードの開発で最難関は、2本のウイングの形状だった。最初はストレートな棒を使ったが、水流の遠心力が強く、米が釜の側面に当たって、洗米も炊飯もうまくいかない。そこで、宮本と技術陣は、社内の基礎研究部門で「生物模倣学」を研究するスタッフに相談した。自然界でサバイバルしてきた動物の体形などを参考に、空力特性の向上などに役立てるユニークな研究である。