10月11日付ウェブNational Interest誌で、Leon V. Sigal米Social Science Research Council部長は、金正恩は核実験を自制しているが、経済改革に踏み出す上でも、米、日、韓との関係改善を望んでいるからであろうとし、北朝鮮の核・ミサイル開発のこれ以上の進展を阻止する為にも、北朝鮮との交渉を再開すべきである、と論じています。
すなわち、7月中旬の軍首脳人事刷新が注目を集めているが、もっと注目すべきことは、金正恩が金正日存命中に準備されていた3回目の核実験に踏み切っていないことである。金正恩の核実験自制は、米、日、韓との関係改善を望んでいる徴候かもしれない。穏やかな国際環境が整うことによって初めて経済の改善に専念できるからである。
金正恩は農民や工場経営者の自主権拡大等に言及しているが、良好な国際環境が無い限り、工業生産を軍需から民需に向け、外国投資を受け入れ、中国への依存を減らす等の実質的な変革はできない。
2002年の経済改革に際しては、北朝鮮は、韓、日への接近を図ったが、米国の反対に遭って失敗した。金正恩は、この先例を知っているので、米、日、韓の三カ国との関係改善なしには経済改革に踏み切れないであろう。その為には、核・ミサイル開発の自粛が必要となる。
2月29日の米朝協議で北朝鮮側の自粛が実現するかに見えたが、北朝鮮は合意の直後にミサイル発射実験に踏み切った。北朝鮮は、これまで行動には行動で応えるとの方針を取ってきた。米国が約束違反をしていないのに、北朝鮮が約束違反の行動に出たのは、今回が初めてのことである。米国が北朝鮮の核計画自粛を望むのであれば、先ずミサイル発射実験を黙認せよとの高いハードルを北朝鮮側が米国に突き付けたことになる。
北朝鮮の当局者は、2月29日の合意やその後のミサイル発射実験の実施は、金正日存命中に決まっていたことであり、金正恩の意向によるものではないとし、「新世代」の権力者は米国との関係改善を希望していると述べているが、その通りかもしれない。ミサイル発射実験発表に当たって、北のメディアは金正日の名前を繰り返したが、金正恩の名前は出していない。
5月22日の外務省報道官声明で、北朝鮮は、米国政府に対し核実験は行わないと伝えたことを発表した。犬は吠えなかったのである。
北朝鮮は、12月の韓国大統領選で誰が当選しても、北との経済関係修復に向かうものと期待している。経済関係の断絶は南北間の緊張を高めただけで成果をあげていないからである。北朝鮮の変化を引き出すには関与政策しか無いのである。