2024年12月23日(月)

オトナの教養 週末の一冊

2012年12月14日

 地方の疲弊が叫ばれて久しい。東京圏(東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県)で生まれ育ったり、生活をしていたりするとなかなか地方の実情について知ることは少ない。しかし、東京へは毎年、地方から多くの若者が上京し、やがて定住する。

 東北地方出身の若者たちが「なぜ住み慣れた故郷から移動し、何を得て、何を失うのか」――。こうした問のもとに書かれたのが『「東京」に出る若者たち――仕事・社会関係・地域間格差』(石黒格、李永俊、杉浦裕晃、山口恵子著・ミネルヴァ書房)だ。今回、著者のひとりで、日本女子大学・人間社会学部准教授の石黒格氏に「東京へ出るメリット・デメリット」「ローカル・トラック」「機会の不平等」についてお話を伺った。

――東北地方の若者の現状がよくわかる本だと思いますが、地方からの視線というのは珍しいと思います。

『「東京」に出る若者たち――仕事・社会関係・地域間格差』 (石黒格、李永俊、杉浦裕晃、山口恵子著・ミネルヴァ書房)

石黒格氏(以下石黒氏):若者に関する本、たとえば首都圏と地方の若者の地域差などを論じている本では実際に地方の子たちが何を考え、どういった状況に置かれているのかということが具体的に書かれているものは少ないのが現状です。それは大学の研究者の8割が関東や近畿におり、また若者に関する調査をする研究所のほとんどもまた関東や近畿にあるといったことに起因しているのではないでしょうか。そういった状況だと、研究者は自然と都会からの視線に固定されてしまいます。

――特に本書では青森の若者たちについて分析されているわけですが、青森の就業状況はどうなのでしょうか?

石黒氏:たとえば、フリーター率は低いです。それはフリーターになろうにも、まずアルバイトがないからです。求職者ひとりあたりの求人数を表す有効求人倍率に関しては常に全国で下から2番目といった状況です。むつ市の職業安定所に行った際には、職安の求人票にコンビニエンスストアのアルバイトの求人票が貼ってありました。それくらい仕事がないんです。青森では原子力と医療に関する仕事ぐらいが安定雇用で、一番収入が良いとされているのは地方公務員です。東京圏の人からすれば、地方公務員になるのは高い収入を得るためというより、安定を求めてという側面が強いと思いますが、青森ではそれが現実なのです。


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