ところが、バブルを経て、昔と比較すると日本はかなり均等に発展してきている。インターネットの出現により、昔に比べ欲しい物が手に入らないということもない。そうすると移動する理由がないですよね。移動する必要がないならば、生まれ育った土地や家族、友人から離れる理由もない。移動というのは常に就職や進学といった機会に行われます。必ずしも全員が移動しなくてはいけないわけではありません。
ただ、忘れてはならないのは、「若者の地元志向が問題だ」というのは、それ自体が大都市中心の発想だと言うことです。地方の地域社会では、地域出身の若者がどうすれば地元に留まってくれるのかということのほうが、ずっと大きな問題なのです。
――本書をどんな人に読んで欲しいでしょうか?
石黒氏:ひとつは、一般の東北の人たちです。特に若い人には、地元を離れることを過剰に恐れないで欲しいですし、東京へ過剰な夢も持たないで欲しいと思います。私たちの調査は限定的ではありますが、調査した限りの実態があるということを伝えたいですね。
もうひとつ、都会中心、都会の利害、都会から見える景色だけを切り取って、アカデミックな議論をしている方々に問いたいと考えています。アカデミック方面の反応はもう少し時間が経たないとわかりませんが…。
石黒格 (いしぐろ・いたる)
日本女子大学人間社会学部准教授。主著に『青森県で生きる若者たち』(共著、弘前大学出版会、2008年)、『Stataによる社会調査データの分析』(編著、北大路書房、2008年)などがある。
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