虚しく響いた「中国ガンバレ」の大絶叫
やがて聖火が消え、習近平政権が全力を傾けたはずの「双奥」が終わった瞬間、ふと思い出されたのが、73年前の1949年10月1日の建国式典における毛沢東の発言であった。
あの日、共に革命を戦った昨日までの同志たちを臣下然と従えて天安門楼上に立った毛沢東は、「中華人民共和国中央人民政府は今日、成立した」と内外に向け高らかに、しかも傲然と建国を宣言し、次いで「これでわが民族は他から侮られない民族になった」と続けたのである。
毛沢東にとって建国とは「わが民族」が「他から侮られない民族になった」ことの証であった。
たしかにあの日、毛沢東は世界を震撼させた。世界は毛沢東率いる「新中国」の成立に驚愕し、20世紀後半の米国を代表するノンフィクション作家バーバラ・W・タックマンが『失敗したアメリカの中国政策』(朝日新聞社 1996年)で喝破したように、米国の中国政策の失敗が白日の下に晒されてしまった。米国の敗北は中国の勝利であった。
お人好しにも日本では、「道義国家の誕生」などと興奮気味に歓迎する声が上がった。やがて、それがウソだったことが分かるようになるのだが。
あれから73年が過ぎた。
1972年、不倶戴天の敵であったはずの米国のリチャード・ニクソン大統領を、毛沢東は自邸書斎に招き入れた。1978年末に対外開放された中国は2001年に世界貿易機関(WTO)に加盟し、08年には北京でオリンピック夏季大会を、10年には上海で万国博覧会を開催し、同年には国内総生産(GDP)で日本を抜き世界第2位となった。国際社会から批判の声が上がっているとは言うものの一帯一路の建設は進められ、さらには今年初の「双奥」である。
ニクソン訪中を起点にして中国が踏み固めてきた一連の歩みを〝国際基準〟に照らすなら、その功罪の判断はひとまず措くとしても、習近平国家主席の率いる中国は、国際社会における存在感を従来とは比較にならないほどに強めたと言える。
だが露骨なまでの勝利至上主義を色濃く反映した「双奥」の開催程度で、はたして「これでわが民族は他から侮られない民族になった」と、国際社会に向かって胸を張れるだろうか。競技会場で聞かれた「中国加油(ガンバレ中国、中国ガンバレ!)」の大絶叫が虚しく響くばかりであった。
目算を狂わせたプーチンの〝決意〟
習近平政権が構想していた当初の政治日程のままに進めば、北京における「双奥」を〝赫々(かっかく)たる成果〟のうちに終わらせ、内外注視のなかで今年の「双会(全国人民代表大会=全人代と全国人民政治協商会議=全国政協)」を成功裏に閉じる。政権基盤を強固にした勢いのままに今秋の第20回党大会を開催し、〝威風堂々〟と政権3期目に船出する――はずであっただろう。