2022年12月8日(木)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2022年3月16日

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樋泉克夫 (ひずみ・かつお)

愛知県立大学名誉教授

中央大学法学部、香港中文大学新亜研究所、中央大学大学院博士後期課程を経て外務省専門調査員として在タイ日本国大使館勤務。著書に『華僑コネクション』『京劇と中国人』『華僑烈々―大中華圏を動かす覇者たち―』(以上、新潮社刊)など。

[著書]

 そうなっていたなら、おそらく世界中のメディアの関心は確実に北京における「双奥」と「双会」に注がれ、ウクライナ侵略を機に世界中のメディアが露プーチン大統領の動向に最大限に関心を払わざるを得なくなったと同じように、習国家主席の一挙手一投足が世界に向けて発信されていたはずだ。

 一説には冬季オリンピックを機に北京で行われた中露首脳会談において、習国家主席はウクライナ侵略を北京での国際的イベント後に先延ばしすることを求めたと伝えられる。この報道が正しいとするなら、プーチン大統領の〝断固たる決意〟が中国側の目算を狂わせてしまったことになる。

 成功の余韻と次の成功への期待が交錯する「双奥」の合間であるばかりか、「双会」の開会直前という〝微妙な時期〟であるにもかかわらず、プーチン大統領はウクライナ侵略に踏み切ってしまった。そこで当然のように国際社会の関心は北京から転じて、専らウクライナの戦場に注がれる。

 かくして習国家主席の政治日程にケチがつくこととなる。「双会」における論議は内政のワクに絡まったままであり、外交的問題に〝昇華〟させ、関係諸国を疑心暗鬼にさせ翻弄させる戦略的効果を誘引することはなかった。これでは、「これでわが民族は他から侮られない民族になった」と胸を張るわけにはいかないだろう。はたして習国家主席はコケにされたてしまったのか。

習近平にとって「勝利的大会」となるのか

 現状から判断するかぎり、第20回党大会で総書記としての習国家主席の3期目続投は揺るがないだろう。中央政治局常務委員会を自派で固めることで、強固な政権基盤を背景に27年までの向こう5年間の一強体制が続くことは間違いない。であればこそ第20回党大会は、習国家主席にとって「勝利的大会」に終わることになる。

 ここで思い出されるのが、1969年に行われた第9回党大会に現れた毛沢東の振る舞いである。宿敵・劉少奇を失脚させ後継者に林彪を指名し、文革勝利を祝った同大会において、会場全体を揺るがす拍手と歓呼の中に立った毛沢東は「勝利的大会!」の5文字を念仏のように繰り返していた。

 だが、それは「勝利的大会」ではなかった。後継者となった林彪との新たな権力闘争が始まっていたのである。果てしなく続く権力闘争のひとこまでしかなかった。

 はたして現時点で囁かれている構想のままに強固な一強体制が実現したとして、来るべき第20回党大会は習国家主席にとって文字通りの「勝利的大会」となるのか。

 プーチン大統領のウクライナ侵略は手詰まり状況に陥っている。現状から判断する限り、同大統領の選択肢は狭められる一方だ。仮に侵略が失敗に終わった場合、国際社会における習国家主席の存在感は一層高まるに違いない。だが、その一方で、たった1人で米国を筆頭とする国際社会の圧力に対峙しなければならいことにもなるわけだ。

 はたして習国家主席は「プーチンなき世界」を引き受ける覚悟を持った上で、「これでわが民族は他から侮られない民族になった」と高らかに宣言できるのか。

 それにしても、である。習政権が満を持して開催させたであろう「双奥」とは言え、世界第2位の経済力を背景にした壮大、華麗さが過剰なまでに打ち出されるほどに、なぜか会場全体が虚しさに包まれていくのを感じてしまった。

  
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