トランプ以前の共和党の外交政策
これと対照的なのが、野党共和党の動きだ。
共和党は歴代、アイゼンハワー(世界規模の反共軍事同盟構築)、ニクソン(ベトナム戦争)、レーガン(米ソ対決)、ブッシュ(父子)(湾岸、イラン戦争)各政権を通じ、対外進出、軍備増強、軍事介入色を強めてきたことで知られる。
このうち、筆者はとくにレーガン政権時代、ワシントン特派員としてホワイトハウス、国務省、国防総省などを取材してきたが、2期8年を通じ、一貫して「強いアメリカ」のスローガンの下に、日欧同盟諸国との安保協力体制の強化、軍事力増強路線を鮮明に打ち出してきたことを記憶している。その結果、ソ連の国際的影響力は衰退の一途をたどり、ついにソ連邦崩壊にもつながった。
ところが、トランプ政権誕生とともに、こうした対外積極外交・安保政策は顕著に後退、同盟諸国との関係軽視にとどまらず、「貿易不均衡」などを理由に批判を強め、NATO、日本、韓国などとの信頼関係も大きく傷ついた。自国の経済的利益のみを重視する「アメリカ・ファースト」主義がはびこった。
そしてこの偏狭な〝トランピズム〟は、今日もなお、全米の共和党保守層の間で根強く息づいている。
共和党に広がりつつある「非介入主義」
そうした中で、にわかに注目され始めたのが、11月に迫った中間選挙とその結果を踏まえた米外交・安全保障政策への影響だ。
米外交誌「Foreign Policy」6月2日号は、「共和党の中間選挙勝利と世界にとっての意味合い」と題する論考を掲載、先月成立したウクライナ軍事・経済支援法案の米議会審議に関連して、上院で11人、下院で57人の共和党議員が反対したことなどを例に挙げ、共和党が勝利した場合、世界各国にさまざまな影響が及ぶことを警告した。
同誌は、具体的に次のように指摘している:
・11月中間選挙の事情通たちはすでに、「共和党が下院において勝利する可能性が高く、上院についてもチャンスがある」との点で意見が一致している。
・その場合、下院ではケブン・マッカーシー議員が議会トップの議長に、上院ではミッチ・マコーネル議員がナンバーワンの院内総務の座に就くことになるが、「冷戦型思考」の伝統的共和党外交路線を踏襲してきたマコーネル議員とは対照的に、マッカーシー議員の外交姿勢はトランプ前大統領の主張と重ね合わせになっている。
・マッカーシー議員は、ホワイトハウスと議会をバイデン政権が制する中で、右翼グループらとともにことあるごとに法案審議にたてついてきたが、下院議長ポストに座ることによって、政策課題をコントロールできる立場になる。
・「国の再建」を最優先課題ととらえる共和党議員たちにとっては、グローバルな諸問題は〝阻害要因〟とみられており、この中にはウクライナ支援のみならず、対中国関係、台湾防衛、対ロシア制裁、中東政策、防衛支出など多くの問題が含まれる。
・過去のレーガン、ブッシュ歴代政権に見られた通り、伝統的共和党外交路線に従えば「米国は世界の中の1国家にとどまらず、自由主義世界の盟主」であり、民主主義防衛の戦いのためにアフガニスタン、ニカラグア、アンゴラ、エルサルバドル、グレナダ、イラクなど世界各地の紛争に積極介入してきた。
・しかし、この間に共和党内部には対外問題に対する「非介入主義者noninterventionists」勢力が台頭し始め、これを体現したのが16年のトランプ大統領誕生であり、かつて見られなかった「新たなる共和党連合」の結成だった。
これらの新たな共和党の動きの中で当面、重大関心事と目されるのが、11月中間選挙後の対ウクライナ、および台湾政策だろう。