バイデン米大統領の韓国、日本訪問を機に、日本、米国、インド、豪州との首脳会談が東京を舞台に行われ、岸田文雄政権にとっては、ロシアのウクライナ軍事侵攻が続く中でその外交手腕が問われた。東京の駐在が長く、ワシントンにもパイプを持っている、ロールシャッハ・アドバイザリーのジョセフ・クラフト氏に今回の一連の外交成果について聞いた。
――バイデン大統領の記者会見で出た「台湾軍事介入」を肯定する発言をどう見ているか。
クラフト あの発言は失言ではないし、米国務省も否定していない。
過去に大統領は3回、この問題で失言をしているが、そのたびにホワイトハウス報道室または国務省は2つのことを訂正してきた。一つは「一つの中国政策は変わらない」ということと、もう一つは「台湾の自国防衛をサポートする」こと。つまり軍事介入はしないということだ。
しかし、今回、国務省がバイデン発言後に述べたことは「一つの中国政策は変わらない」だけで、台湾自衛についてはコメントしなかった。姿勢が変わってきている。
これまでは「一つの中国政策」と「軍事介入」を区別するような発言は行ってこなかった。今回は、軍事介入は「ある」と言った直後に自ら「一つの中国政策」に変わりはないと、両方を分けて説明したことが重要なポイントだ。軍事介入は政権の政策でなく姿勢だ。今回は「一つの中国政策」は変わらない、しかし「軍事介入はある」と政策と姿勢を分けたことが重要だ。
――米国政府が「台湾有事」で姿勢を変更した理由は何でしょうか。
クラフト ロシアのウクライナへの軍事侵攻だ。米国が軍事介入することを最初に否定してしまったことへの教訓と反省から来ている。本来、大統領は記者会見でこの件について「イエス」「ノー」は言ってはいけないことだ。今まですべての大統領は「すべてのオプションはテーブルにある」と言ってきて、いわゆる「曖昧戦略」が中国に対する抑止になっていた。バイデン大統領はそこが下手だ。
今回の訪日には、オマリー・ディロン次席補佐官とカリーヌ・ジャンピエール報道官という報道・PRを担う高官が同行していた。バイデン大統領の軍事介入発言が失言だったらすぐに否定するはずだが、否定する動きが見られなかったことからみても、米国は台湾有事に関して姿勢の変更をしてきているとみるべきだ。
――一部のメディアはホワイトハウスが今回のバイデン発言の後に「火消し」に走ったと報じたが、この点はどう見ていますか。
クラフト 「火消し」というのはメディアの誤解だ。バイデン大統領は当初から「一つの中国政策に変わりはない」と言及している。その後にホワイトハウスが「一つの中国政策に変わりない」と同じことに言及したことは否定(火消し)ではなく、バイデン大統領の発言を肯定したのだ。これまでの政権は「台湾の自己防衛を支持し軍事介入しない」という(否定)コメントを行って来たが、今回はそれがなかったことが重要だ。つまりホワイトハウスはバイデン大統領の発言を何一つ否定しなかったということだ。