――米国政府は、中国の動向からみて「台湾有事」が数年内にもあり得ると思い始めているとみてよいのでしょうか。
クラフト 今回のバイデン大統領の発言の背景には、米国政府は2~3年内に中国が動くとは思っていないという安心感がある。しかし、習近平国家主席は共産党に対して台湾併合を約束している。だからこれをやらなければ失脚につながる。期限は明示していないが、2035年ごろまでではないか。
その意味で、この秋に開催される共産党大会の最大の目的は、主要ポストに習近平主席の側近を入れて権力基盤固めをすることだ。どこまで固められるかによって、習近平主席の影響力も変わってくる。大幅入れ替えだと、完全に権力を掌握したことになる。
経済的な対中政策の実態は?
――米国が提唱して発足した経済圏構想「インド太平洋経済枠組み」(IPEF)はどうみていますか。
クラフト IPEFの最大目的はアジアでの米存在感を高め、中国に対抗する経済圏を作ること。IPEFは4つの柱で連携を深めることが狙いで①貿易、②供給網、③インフラ・脱炭素、④税・反汚職を挙げている。
今までアジアで存在感なかった米国としては、できることは限られている中で、やれることはやったかなという印象だ。IPEF参加国間の経済網を広げると言っても、行政的な合意文書なので、参加国に対して拘束力がない。次の米国の政権がこのIPEFを継承するかどうかも分からない。しかしIPEFはその効果が薄い分だけ、参加する国としては入りやすい面がある。米国の顔を立ててお付き合いはしましょうという形でまとまったと言える。
――IPEFよりも現在、米国議会下院で審議中の「イノベーション・競争法案」の成立が最重要課題だと見ているのはなぜですか。
クラフト 現在IPEFの枠組みでどの国とも何も話し合いは進んでいない。米国は国内法案の他に中間選挙も控えていることからIPEFが積極的に進むとは思えない。むしろ日米のハイテク分野で最先端の半導体を開発するなど、中国を念頭に置いた共同のプロジェクトを推進すべきだ。
「イノベーション・競争法案」と名付けられているものの、本質は対中国強硬法案で、半導体産業強化のために5年間で520億ドル(約66兆円)に及ぶ予算・補助金が盛り込まれている。この予算なくしては米国の半導体戦略は始まらない。この法案が成立しないことには、IPEFで何かやろうとしても「絵に描いた餅」にしかすぎない。
この法案は去年の6月に超党派により上院で可決したが、現在下院で滞っている。ペロシ下院議長は、7月までに法案成立を目指すと主張しているが、夏休みが間近にあり、さらに中間選挙活動への専念で年内に成立できるか不透明だ。IPEFも重要だが、バイデン政権は先ず議会に「イノベーション・競争法案」の成立を最優先に働きかけるべきだ。
――今回は、今までアジアで存在感がなかった米国としては、できることは限られている中で、やれることはやったかなという印象です。
クラフト IPEF参加国間の経済網を広げると言っても、行政的な合意文書なので、参加国に対して拘束力がない。次の米国の政権がこのIPEFを継承するかどうかも分からない。しかしIPEFはその効果が薄い分だけ、フィジーも参加する14カ国としては入りやすい面がある。米国の顔を立ててお付き合いはしましょうという形でまとまったと言える。
首脳会合の成果と課題
――今回、東京で行われた一連の首脳会合は成果が大きかったとみることはできますか。
クラフト これは岸田外交の一番の成果と言えるが、米国を筆頭にして西側がアジアで一致団結、結束した姿勢をロシアと中国に見せたことは大きな意義があった。とりわけ、日米豪印4カ国の枠組み「クアッド」で岸田首相がうまくインドを取り込めたのは意味がある。
ロシアという言葉は入らなかったが、「クワッド」声明文には「ウクライナ侵攻は反対する」という文言も入れることができた。声明文中に、ロシアは入れずにウクライナを入れたのは、日本外交がうまくバランスをとって入れたのだと思う。米国だったらできなかった技・戦術だ。