2022年6月30日(木)

インドから見た世界のリアル

2022年5月26日

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長尾 賢 (ながお・さとる)

米ハドソン研究所 研究員

学習院大学大学院にて博士号(政治学)取得。米戦略国際問題研究所(CSIS)客員研究員などを経て2017年から現職。日本戦略研究フォーラム上席研究員、スリランカ国家安全保障研究所上級研究員、未来工学研究所特別研究員なども兼任。著書に『検証 インドの軍事戦略』(ミネルヴァ書房)。

 日本がホストとなって行われた日米豪印4カ国の枠組み「クアッド」の首脳会談が終わった。今回のクアッド諸国の首脳会談ではどのような成果を上げたといえるだろうか。筆者の分析では、今回のクアッドは大きく3つ成果を上げたと考えられる。ここでは、その3つの成果について分析した上で、その意義と残された課題について取り上げる。

(代表撮影/ロイター/アフロ)

「ロシア」の文言はないが、「ウクライナ」はある

 まず、今回のクアッド首脳会談の共同声明は、ロシアのウクライナ侵攻によって起きたクアッド諸国内の意見の相違を、緩和するものであった。日米豪3カ国がロシアへの経済制裁を行う一方で、インドはロシアへの非難を控えている。このような傾向に対し、クアッド首脳会談の冒頭で、米バイデン大統領は繰り返し、ロシアのウクライナ侵攻に言及したし、インド側は、そのような傾向を嫌っていた。

 結局、クアッド首脳会談の後、出された声明には「ロシア」という文言は一切入っていないものとなった。しかし、この声明は「ウクライナでの悲劇的な紛争が激しさを増す中」として、明確にウクライナを含む形で「武力による威嚇又は武力の行使や現状を変更しようとするいかなる一方的な試みに訴えることなく紛争を平和的に解決すること」を追求することを明記している。この文言は、ホストとなった日本政府が、インドの姿勢を、ぎりぎりまで日米豪の側へ近づけた声明といっていい。

 実は、過去の日本外交には、似たような事例が複数ある。例えば、中国政府が台湾について自国領だと主張する「一つの中国」政策に関して、日本は、中国政府の立場として「十分理解し尊重する」としている。

 この言い方は、中国からすると、日本が台湾を中国の一部だと認めたように読めるが、実際には、中国の立場に理解を示しただけで、日本として台湾を中国の一部だと認めたわけではないものとなっている。今回のクアッド首脳会談で、日本がホストとなり、インドとの意見の相違を、まさに理解し尊重して、一致点を見出した点では、「一つの中国」の時と、同じ外交技術が用いられたものといえる。

 また、日本は、2020年に印中国境で両軍が衝突し、100人近いインド兵が死傷した際、インド支持の声明をだしている。しかし、その声明は、「中国」とは名指しせず、「力による一方的な現状変更は、いかなるものであれ支持しない」というもので、平和的解決をもとめたものである。これも、今回のクアッドの声明に非常によく似ている。

 今回のクアッド首脳会談の共同声明は、日本外交が、その典型的な手法を用いて、ロシアのウクライナ侵攻のクアッドへの影響を最低限に抑えた点で、日本らしい成功を収めたものといえるのである。

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