海洋情報把握に関しても、インド洋の情報を集めるインフォメーション・フュージョン・センターを設置しているが、これはインド海軍に立ち上げた組織で、自衛隊、米軍、豪軍も連絡官を派遣している。そして、インドはベトナムに衛星情報の受信施設を設置しており、施設設置の代わりに、受信した情報をベトナムに提供している。
同じような協定をインドネシアとブルネイとも結ぼうとしている。これらの国は、受け取った衛星情報を、経済だけでなく軍事も含めた形で利用することが可能だ。だから、クアッド首脳会議が、こうした分野で合意したことは、クアッドの枠組みにおける安全保障協力の分野が徐々に進展し始めていることを、示している。
まだまだ展開の余地はある
このような状態を総括すれば、クアッドは明らかな進展を遂げている。クアッド首脳会談そのものは、昨年始まったばかりで、1年しかたっていない。しかも軍事面でどう協力するのか、といった分野は、二国間ばかりで話し合われ、クアッド首脳会談ではあまり話題になっていない。
もし中国が、クアッドを軍事的な協力枠組みだと考え、攻撃することを考えたら、陸続きのインドから順番に攻撃することが考えられるから、インドが、軍事色が強まるのに反対なのである。
しかし、今回の合意内容を見ると、国際的なルールに関する協力、経済分野の協力、そして、安全保障分野における協力、すべてにおいて、合意が成立しており、分野が拡大している。ここから、クアッドは、確実に育ってきていることがわかるのである。
中国とロシアの反応も、それを裏付けるものであろう。クアッド各国が訪日している最中、中国の王毅外相は5月22日に、パキスタンの外相と会談した。クアッドがインドを味方につけようとするなら、中国はパキスタンを味方につけるというメッセージとみられる。
王毅外相は、そのまま南太平洋諸国への訪問も行うようだ。最近ソロモン諸島との間で安全保障協力協定を結んだばかりだ。また、5月24日には、中国軍とロシア軍の爆撃機が共同で、東シナ海から日本海まで飛行した。中国とロシアは、クアッド各国の協力の進展からプレッシャーを受けてものとみられる。
若干気になるのは、今回のクアッドの合意では、もう一つ踏み込んでもいい合意がなされていないことだ。例えば、600万人を超えるウクライナの難民への対策をするために、クアッド共同で資金を出すこともできた可能性がある。
また、エネルギーや食糧価格の上昇が、パキスタンやスリランカなどの各国の政権交代の原因になっていることを踏まえれば、クアッド共同で支援する枠組みを創設しても、よかったように思われる。今後、価格の上昇が続けば、政権が不安定になる国が増えて、米中どちらの陣営がどの国の面倒を見るか、陣取り合戦になることも予想される。
クアッドが主導して、そうした支援枠組みをつくっておくことは有用だ。これらは残された課題であろう。
クアッドは、インド太平洋地域で、中国以外に影響力のある国々が全て加わった枠組みである。クアッドの行く末は、インド太平洋の秩序を決める、決定的要因になりえるものといえよう。