ロシアのウクライナ侵略が始まって以来、ロシアのことを非難しないインドの姿勢は、目立ってきた。国連安全保障理事会ではロシアを非難する決議に棄権、国連総会でもロシアへの非難を棄権した。国連総会では141カ国がロシアを非難する決議に賛成したから、インドの姿勢は目立っていた。
インドの姿勢は、インドのジャイシャンカル外相も繰り返し指摘しているが、交渉により平和的解決を望む一方で、ロシアを非難しない、一貫したものである。各国がロシアに経済制裁を課す中、インドの国営会社2社が500万バレルの石油をロシアに発注してもいる。
しかし、3月半ばから、インドのロシア寄りの姿勢について若干、イメージの緩和に努めているようにも見える。例えば、3月17日、ロシアが直ちに軍事行動をやめるべきであるとの判決を出したハーグの国際司法裁判所での判決では、インドの判事が賛成にまわった。15人の判事の内、反対したのはロシアと中国の判事だけであった。
国連安保理にロシアが提出した決議に、インドは他の12カ国とともに棄権した。やはりロシアと中国だけが賛成した。さらに、インド軍が保有するロシア製の戦車、艦艇、戦闘機の部品100点以上について、ロシアからの修理部品の輸入を禁止し、国産品に付け替える方針も決めつつある。ロシアに依存しない体制をつくるつもりだ。
インドはロシアを非難しない一方で、ロシアから距離をとり、ロシアの侵略は止めるべきと考えていることを、示唆するようになっている。なぜであろうか。
背景にある日豪と中の攻防
興味深いことの一つは、3月半ばからの外交的な動きだ。3月19~20日に日本の岸田文雄首相が訪印、3月22日には、豪モリソン首相も、印モディ首相とオンラインで会談した。そして、3月25日、今度は中国の王毅外相が訪印したのである。
その背景には、インドのロシアに対する姿勢が、インド太平洋における日米豪印のQuad(クアッド)の協力に影響し始めていることがある。国連総会でロシアのウクライナ侵略を非難する決議にインドが棄権した後の3月2日、米バイデン大統領は米ウイスコンシン州で演説し、インドを、中国と並んで、名指しで批判した。
3月22日にも、バイデン大統領はQuadの中で、インドの態度を批判している。このようにロシアのウクライナ侵略の姿勢は、単にヨーロッパの情勢にとどまらず、インド太平洋におけるQuadの協力に影を差し始めている。
そこで動いたのが日本、豪州、そして中国である。日本と豪州は、インドとの共通の立場を見出し、Quadの枠組みをとり持とうとした。日本の岸田首相は3月19~20日にインドを訪問し、共同声明をだした。3月22日には、豪モリソン首相がオンラインで、印モディ首相と会談し、やはり共同声明を出した。