共同声明を見ると、その努力が伝わってくる。日印の共同声明には「全ての国が武力による威嚇若しくは武力の行使、または一方的な現状変更の試みに訴えることなく、国際法に従って紛争の平和的解決を追求しなければならない」と明記されているし、日豪の方にも似たような文言が入っているのである。「ロシア」と名指しはしていないものの、「全ての国」であるから、ロシアを含む形で「一方的な現状変更の試み」を批判する文章が入っている。
別れさせるための中国外相の訪問
一方、この動きを見て、急遽、インド訪問を決めたのが中国の王毅外相である。中国外相の訪印は異例である。2020年にインドと中国が激突し、インド側だけで100人近い死傷者が出て以来、印中の首脳、外相はお互い、訪問していない。しかし、日米豪とインドの立場に違いを見つけた中国は、中国包囲網になり得るQuadの協力関係を離間させる、まさに「別れさせる」ために、訪印したものと思われる。
ただ、中国の外相の訪問は、あまりに準備不足であった。そもそも、中国軍が印中国境に大規模に展開し、一部はインド側に侵入したままの状態で、インドと協力しようとしにきても、協力できない状況がある。さらに、王外相は、インド訪問前にパキスタンで開かれたイスラム協力機構(OIC)に出席していて、そこでカシミール問題でイスラム協力機構の立場を支持する旨、発表していた。
20年に印中両軍が衝突した地域は、まさにその「カシミール」の一部であり、その地域の領有権について、中国が立場を表明することは、インドにとって攻撃的な姿勢と映る。王外相がインドを訪問した時、インドは怒っていたのであった。
このようにみると、日本と豪州の努力は、中国の妨害を乗り越えて、インドの姿勢を微修正させ、Quadの協力関係をつなぎとめる点では、一定の成果を上げたといえる。
中国と同じにされたくないインド
こうしたインドの姿勢の微修正といえる変化は、日本と豪州の努力だけでなく、主に二つの大きな変化から起きたものとみられる。
一つは、インドが、中国と同じグループに入っているとみられたくないからである。米中が対立した時も、ロシアとウクライナの戦争でも、インドはどちらの陣営なのかと問われれば、インドは「インド陣営」だと答える傾向がある。つまり、インドにとっては「違う」ことそのものが、インドが独立した主権をもっていることを示す、重要な外交政策なのである。
もし、ロシアのウクライナ侵略をめぐって、インドと中国がいつも行動を共にしていたら、インドは中国と「同じ」になってしまう。インドにとっては、そのこと自体が嫌なのである。
また、インドは、中国よりも「モラルが高い」ことを重視してもいる。国際法廷の尊重もその一つだ。中国は、過去、国際法廷を無視したことがある。南シナ海の問題について、フィリピンが常設仲裁裁判所に訴えた時だ。
裁判所は、中国の南シナ海における領有権の主張は根拠がないという判決を出した。中国は、これを無視して、人工島建設を続け、軍事化を進めたのである。一方、インドの態度は真逆であった。バングラデシュが、海上国境をめぐって訴え、判決がバングラデシュ有利なものだった時、インドはこの判決を受け入れた。インドは、これを誇っており、中国に比べ、モラルが高いと考えている。
インドにはこのような性質がある。だから、今回、まるでインドと中国が一緒に行動しているように見え始めた時、インドは、嫌がって微修正を始めたのである。