米国とロシアの関係が悪化する中、インドをめぐって1つのミサイルの取引が問題視された。インドがロシアからS-400地対空ミサイルを購入したことである。米国は、トルコがS-400地対空ミサイルを購入した際には制裁を課しており、インドに対しても制裁を課すのではないか、それが米国とインドの関係に大きく影響するのではないか、と危惧された。そして、2021年12月には最初のS-400地対空ミサイルがインドに到着し、22年2月にはインドのパンジャブ州で最初のS-400地対空ミサイルの部隊が創設される予定だ。
実際には、米国はまだインドに制裁を課していない。しかし、制裁を課すのではないかという危惧はかなり以前から議論されていた。
ここで疑問がわくのは、インドと米国が中国対策で協力するようになる中、なぜインドは、米国から制裁をかけられるかもしれない状態でも、S-400地対空ミサイルの購入を強行したのか、である。そこで本稿では、このミサイルが、インドにとってどのような位置づけの武器なのか、そして、それが日本にとってどのような示唆を与えるのか、検証する。
インド軍の武器の60%はソ連・ロシア製
なぜインドがS-400 地対空ミサイルの取引を強行したのか。最初に思い当たるのは、インドにとってロシアからの武器供給が重要だから、ロシアとの関係が痛まないように配慮した、というものである。
たしかにインド軍の武器の60%が旧ソ連およびロシア製の武器で占められている。武器は高度で精密なのに乱暴に扱うものだから、常に整備・修理して使うものだ。弾薬も消費する。そうすると、修理部品や弾薬を供給してくれるロシアの重要性は、インドにとって大きい。
ただ、インドの武器輸入に関して近年の傾向を見てみると、ロシアの重要性は低下している。図は、スウェーデンのシンクタンク、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)のデータベースを用いて、インドが1950年から2020年にかけて輸入した武器における、供給国のシェアを、ソ連およびロシアについては赤色、米英仏イスラエルの4か国に関しては青色にし、それ以外の国は灰色にして比較したものである。
こうしてみると、1961年まではインドの武器購入額のほぼ100%を青色の国々が供給していたのに対し、それ以降は、ソ連やロシアが圧倒的なシェアを占めてきたことがわかる。しかし、過去10年くらいを見ると、ソ連やロシアが占めるシェアが急速に落ち、米英仏イスラエル各国からの武器輸入額がロシアを上回るようになっていることがわかる。
だから、依然として武器供給国としてのロシアの存在は、現在でも一定程度重要であるものの、将来を見据えると、ロシアよりも米国やその同盟国との関係の方が、インドにとってより重要になっていく傾向にある。だからS-400地対空ミサイルの購入に際し、インドがロシアに一定の配慮を示した側面はあるだろうが、それだけで説明できるほど、強い要因とはいえないだろう。では、インドは、なぜS-400地対空ミサイル購入を強行したのだろうか。