2024年7月16日(火)

インドから見た世界のリアル

2022年2月21日

小型の戦術核でインドに対抗

 ところが、パキスタンは、この「コールド・スタート・ドクトリン」に素早く反応してきた。インドが、パキスタンが核兵器の使用を考えないような限定的な攻撃をしてくるなら、それに対応した、限定的な核兵器を保有すればいい、ということになった。具体的には、侵入してくるインド軍に対して使う、威力の低い小型の核兵器(戦術核)である。より小型の弾道ミサイルや巡航ミサイルを開発し、それに、その威力の低い核弾頭を搭載して、パキスタン国内に侵入したインド軍に向けて使うのである。

 これはインドの「コールド・スタート・ドクトリン」にとっては、深刻な脅威であった。パキスタンの核兵器の使用を思いとどまらせるには、もしパキスタンが核兵器を使ったら、インドも核兵器を使うぞ、という脅しが必要である。ところが、パキスタン国内に侵入したインド軍に対して、威力の低い核兵器が落とされた場合、パキスタンがパキスタン国内に核兵器を落としたことになるから、インドの核兵器はどこに報復したらいいだろうか。「一発殴られたら一発だけ返す」程度の比例的な対応を考えると、インドには報復する場所がないのである。

だからインドはS-400が欲しくなった

 つまり、「コールド・スタート・ドクトリン」を実効性あるものにするとしたら、パキスタンの核弾頭を搭載した弾道ミサイルないし巡航ミサイルを、ミサイル防衛システムで迎撃しなければならないのである。そこで、インドはS-400地対空ミサイルが欲しくなったのである。

 インドには弾道ミサイルを迎撃するミサイル防衛システムはあるが、巡航ミサイルを迎撃するミサイル防衛システムはない。S-400地対空ミサイルは、巡航ミサイルの迎撃に優れる。射程も長いから、パンジャブ州に配備すれば、インドの戦車部隊がパキスタン領内に侵入したときでも、その上空を守ることができるのである。

 米国製のミサイルではだめか。米国製のミサイルでは、例えば高高度防衛ミサイル(THAAD)や地対空誘導弾パトリオット(PAC-3)、イージスアショアのようなミサイルがあるが、射程が短かったり、必要な場所に移動できなかったり、高価であったり、する。そのため、インドのニーズに合わない。S-400地対空ミサイルは、適切な選択で、インドはパキスタン対策として、とても欲しかったのである。

実は中国が握る主導権

 ただ、このようなインドの思惑は、今は、有用だとしても、近い将来、崩されてしまうかもしれない。それは、中国がS-400地対空ミサイルを突破できる極超音速ミサイル、例えばDF-17ミサイルをパキスタンに提供する可能性があるからだ。

 実は中国は過去、パキスタンのミサイル開発を継続的に支援してきた。表はパキスタンが保有・開発中のミサイルの一覧である。これをみると、ガズナビ、ナスル、シャヒーンといったミサイルは、中国が開発を支援しているミサイルとみられている。

 中国はパキスタンのミサイル開発に深く関与しているのだ。そのため、インドのS-400地対空ミサイル対策についても、中国が関与する可能性が高い。


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