2022年12月3日(土)

ディスインフォメーションの世紀

2022年2月16日

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桒原響子 (くわはら・きょうこ)

日本国際問題研究所研究員

1993年生まれ。大阪大学大学院国際公共政策研究科修士課程修了。外務省大臣官房戦略的対外発信拠点室外務事務官、未来工学研究所研究員などを経て、現職。京都大学レジリエンス実践ユニット特任助教などを兼務。近著に『なぜ日本の「正しさ」は世界に伝わらないのか 日中韓熾烈なイメージ戦』(ウェッジ)。
 

 2021年3月、フィリップ・デービッドソン・インド太平洋軍司令官(当時)が米上院軍事委員会の公聴会で「6年以内に中国が台湾に侵攻する可能性がある」と発言した。

 デービッドソン氏のこの発言は中国の軍備拡張を強調するものであり、米国の軍備強化の必要性を米議会に働きかける狙いもあったと考えられる。「6年」という期限についても確たる根拠があったわけではないものの、具体的な期限を示した発言が米国の軍部トップの一人から出たことから、台湾有事が現実の可能性として論じられることが多くなってきた。

(OYUN GWON/EYEEM/GETTYIMAGES)

 その後、マーク・ミリー統合参謀本部議長は「6年以内に侵攻」議論が一人歩きしないよう、「中国は台湾侵攻の能力を持ちたいという意欲は持っているが、近い将来台湾を攻撃するとは考えていない」とコメントしたが、日本では台湾有事に対する関心がますます高まってきている。

 デービッドソン氏の発言に続き、翌4月に開催された日米首脳会談の共同声明において「台湾海峡の平和と安定の重要性」が謳われたが、日米首脳声明で台湾海峡が盛り込まれるのは1972年の日中国交正常化以来であった。台湾海峡をめぐり、国内のシンクタンクなどでも机上演習の機会が増えてきている。

 「台湾有事」とは、台湾を舞台に戦争状態、あるいはそれに近い軍事衝突が起きることを意味しており、その地理的な近さから考えても、日本が確実に巻き込まれると言っていい深刻な事態である。もっとも、台湾有事を想定して、日本としてさまざまな備えをすることは重要だが、何より重要視されるべきは、いかにして台湾有事が起きないようにするかである。防衛力の整備と並行して外交的な努力を払う必要があることは言うまでもない。

 米国においても台湾情勢への懸念が強まっており、これまでの「戦略的曖昧」(Strategic ambiguity)政策ではなく、「戦略的な明確さ」、つまり、「中国が台湾を攻撃すれば米国は台湾を守る」ことを明確にすることが対中抑止において必要になってきている、という議論も出てきた。

 しかし、バイデン政権は、台湾をめぐる議論があまりに加熱するのを警戒してか、日本に台湾情勢の深刻さを強調してきたカート・キャンベル・インド太平洋調整官が意識的に「台湾の独立は支持しない」と語り、歴代米政権が踏襲してきた「一つの中国」政策を堅持する立場と、「戦略的曖昧」政策を維持すべきだと強調している。

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