2022年10月1日(土)

ディスインフォメーションの世紀

2022年2月16日

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桒原響子 (くわはら・きょうこ)

日本国際問題研究所研究員

1993年生まれ。大阪大学大学院国際公共政策研究科修士課程修了。外務省大臣官房戦略的対外発信拠点室外務事務官、未来工学研究所研究員などを経て、現職。京都大学レジリエンス実践ユニット特任助教などを兼務。近著に『なぜ日本の「正しさ」は世界に伝わらないのか 日中韓熾烈なイメージ戦』(ウェッジ)。
 

 国際社会に対しても、中国による宣伝戦や法律戦が展開され、伝統的メディアやソーシャルメディアを通じ、自らの行動の正当性を主張すると考えられ、国際社会もそれに翻弄される危険がある。

影響力工作の脅威を認識し
政府主導で対策強化を

 日本は、海外からの影響力工作対策において多くの課題を残している。ディスインフォメーション自体に対する認識は高まりつつあるものの、ディスインフォメーションに対する脅威認識は欧米などと大きな温度差があり、政府による対策も確立されていない。昨年12月に日米台のシンクタンクが共催した安全保障対話では、ディスインフォメーションへの脅威や対策の重要性についても米台の専門家によって危機感をもって議論された。

 例えば台湾では、中国の影響力工作に対する住民の危機意識が非常に高いことが世論調査によって明らかになっている。臺灣民主基金會が19年に実施したディスインフォメーションに対する意識調査によれば、ディスインフォメーションについて、91.7%もの台湾住民が「他人の判断に影響を与える傾向がある」と考えており、94.2%もが「台湾の民主主義に損害を与える」と考えている。

 また、台湾行政院長(首相に相当)の蘇貞昌氏などの政治家も自らのソーシャルメディアアカウントを活用している。「インターネット・ミーム」と呼ばれるコンテンツを、短く、かつ、ユーモアを交えて発信するなど、若者にも親しみやすく拡散されやすい手法を駆使しディスインフォメーションなどについて住民に注意喚起することにも積極的である。

 現在の日本が米台と同等の脅威認識を持ち、関係国・地域との協力を実現させるまでの道のりは険しい。たしかに日本は、これまで複雑な日本語の障壁などによって海外からの厳しいディスインフォメーションの脅威から守られてきた。しかし今後、AI翻訳技術などの精度が向上すれば深刻な危険に晒される可能性が高まる。

 ディスインフォメーション・キャンペーンのようなグレーゾーン事態においては、政府のみならず、自治体や公共機関、企業、市民団体、そして国民一人ひとりが標的となる。その上でディスインフォメーションの脅威から国民や国家を守るためには、政府が適切な現状分析に基づく危機意識を国民と共有し、国民の支持の下に対策の枠組みを構築する必要がある。具体的には、ディスインフォメーション対策において国家安全保障局(NSS)などが指揮・統括などの中心的役割を果たし、関係府省庁の横断的な対応が可能な体制づくりも検討されるべきだろう。

 また、政府がディスインフォメーション対策において、メディアに対してもその危険性について問題意識を共有するなどしつつ、ディスインフォメーションを監視し、即時に対応する能力を持つことも重要だ。それには市民社会の連携も不可欠で、平時からの官民両面でのサイバー攻撃の監視をはじめ、ファクトチェック機能拡充のための民間団体の支援、官民間の情報共有の仕組みづくり、そしてプラットフォーム事業者の役割についてさらなる議論を進める努力も望まれる。

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