2024年4月24日(水)

インドから見た世界のリアル

2022年2月21日

パキスタン対策に必要

 インドがS-400地対空ミサイル購入を強行した背景には、外国(この場合は米国)の圧力に屈したようにみせるわけにはいかない、といった主権国家としての威信に関わる問題があるものと思われる。ただ、それだけではない。そもそもS-400地対空ミサイルが、インドにとって魅力的だったからである。

 どれほど魅力的だったのか。インドがS-400地対空ミサイルの部隊を創設した位置から、その意図が読み取れる。インドがS-400地対空ミサイルをパンジャブ州に配備しようとしていることは、パキスタン対策に必要だったことを意味しているからだ。パキスタン対策にとってどの程度有用なのだろうか。

インドがS-400地対空ミサイルを配備しようとしているパンジャブ州は、パキスタンと隣接する場所となる 写真を拡大

 パキスタンは、1971年の第3次印パ戦争でインドに敗れて以後、インドに対抗するためにいくつかの戦略を考えた。その一つは核兵器を保有することであり、もう一つは、テロリストを支援してインドの国力を削ぐ、「千の傷戦略(どのような大きな国も、テロによって小さな傷をたくさんつければ力を削がれる、という戦略)」であった。インドは対応を迫られたのである。

 実際、2001年12月、パキスタンが訓練したテロリストがインド国会を襲撃すると、インドは対応を迫られた。インドは70万人の軍を戦闘配置につけ、パキスタン攻撃の体制をとったのである。しかし、実際にパキスタン攻撃の体制をとってみたところ、当時のインド戦略であった「スンダルジー・ドクトリン」には問題が多いことが露呈してしまった。

 その作戦は、大規模な戦車部隊でパキスタンを南北真っ二つにし、全土を占領するものであった。しかし、パキスタンが核兵器を保有している状況下で、実施できるとは思えなかった。さらに、そのような大規模な攻撃を実施する体制になるには3週間もかかった。

 だから、パキスタン側の防衛も強化されてしまい、30万人も配置についてしまった。その上、戦闘配置に3週間もかかると、国際社会が、インドに対して、パキスタン攻撃をしないよう、強い外交的圧力をかけてきた。結果、インドは「スンダルジー・ドクトリン」では、パキスタンが支援するテロ攻撃に対応するには、不十分であることが分かったのである。

限定的な攻撃を加える新作戦

 そこで、インドは新しい戦略を考え始めた。方法は4つ。パキスタン国内にあるテロリストの訓練キャンプだけを特殊部隊で襲撃する方法(16年実施)、空爆する方法(19年実施)、海上封鎖してパキスタンに反省を促す方法、そして、戦車部隊でより限定的な攻撃をかける方法であった。この最後の戦車部隊で、より限定的な攻撃をかける方法は「コールド・スタート・ドクトリン」と呼ばれた。これがS-400地対空ミサイルと関係してくるのである。

 この「コールド・スタート・ドクトリン」では、あらかじめ戦車部隊を国境近くに配置しておく。そして、パキスタンが支援するテロ攻撃が起きた場合、即攻撃に着手する。攻撃は限定的で、パキスタンのテロの拠点などを対象とし、そこで攻撃をやめる。

 パキスタンは核兵器を使うほどではない程度なので、核戦争にはならない。国際社会がインドを止めに入るとしても、そのような外交的な動きには、だいたい1週間程度の準備期間が必要な傾向がある。

 また、国連常任理事国には、インドに味方する国もおり(冷戦時代はソ連、今は米国やフランスなど)、インドに攻撃をやめさせようとする決議がでそうになれば、それらの国々が拒否権を使うことができる。1週間から2週間くらいであれば、そういった国々がインドのために拒否権を使い続けてくれるだろう(その後は我慢できなくなり、インドに早く決着をつけるよう要求してくる)。

 そう考えるとだいたい2~3週間くらいあれば、パキスタンに対して、テロ支援の反省を促すような攻撃が可能だ。だから、「コールド・スタート・ドクトリン」は現実味があるように思われたのである。

(注)「スンダルジー・ドクトリン」のスンダルジーは、この考え方を確立した当時の陸軍参謀長の名前。「コールド・スタート・ドクトリン」の「コールド・スタート」とは、冷えたミサイルを暖機運転なしに発射できる技術を指す。つまり、テロ事件が発生してから即応することを指しているものとみられる。

新着記事

»もっと見る