2024年4月19日(金)

インドから見た世界のリアル

2022年5月26日

インド太平洋経済協力枠組みにクアッドすべてが参加

 経済面の合意もまた、大成果であったといえる。これは特に米国が主導する「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」についていえることである。クアッド首脳会談の共同声明に明記されたものではないが、クアッドに加盟するすべての国が、その創設に向けた協議に参加することで合意した。

 このような経済枠組みは、実際には、中国対策の要である。中国の力の根源は、その資金力にあるからである。例えば、中国の軍事力の急速な近代化は、中国に資金力があるからできることである。

 中国が「一帯一路構想」の名の下で、高利でインフラ投資を行い、巨大な債務を抱えた国は、中国の影響下に入っていく。そうしたことができるのも、中国に資金力があるからである。

 さらに、中国市場に依存している国は、中国から嫌がらせ、事実上の経済制裁を受ける可能性がある。豪州が、新型コロナウイルスについて国際的な調査を求めたところ、中国政府が豪州からの輸入品、ワインやロブスターなどの輸入のプロセスを意図的に遅らせたことは、記憶に新しいところである。中国には資金力があり、中国市場に依存していることが、中国が軍事的、経済的に横暴になる原因をつくっている。

 そのため、中国に依存しない経済を作り、中国に支払う金の量は減らしていくことは、急務になりつつある。ところが、これまでの経済枠組みは、3つの条件を満たしていなかった。

 1つは、中国を入れない枠組みになっていなかった。中国対策の市場の構築なのに、中国が入っていて、中国との貿易が促進されるような枠組みは機能しない。中国は、地域的な包括的経済連携(RCEP)に入っていて、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)にまで加盟申請をしている。

 2つ目は米国を入れた枠組みになっていなかったことである。中国対策を強力に推進するとしたら、それができるのは米国である。米国はRCEPには入っておらず、TPPからは出て行ってしまった。

 そして3つ目は、インドを入れた枠組みになっていなかったことである。中国市場に頼らない市場を探すのであれば、インドの巨大市場の存在は欠かせない。インドはTPPに入っていない。RCEPに関しても、中国との貿易を促進することになるとして、撤退した。IPEFは、中国はおらず、米国とインドが入っている点で、この3つの条件をすべて満たしている。その点で大きな成功である。

静かに進む安全保障協力

 今回のクアッド首脳会談で興味深いことは、安全保障分野で進展があったことである。もともとクアッド首脳会談では、最新技術に使われる可能性がある、レアメタルのサプライチェーンも念頭に置いた協力が、含まれていた。また、東シナ海、南シナ海の情勢を念頭に、海洋安全保障協力が、首脳会談のたびに、明記されている。しかし、今回のクアッド首脳会談では、そこから一歩踏み込んだ具体的な協力について合意している。

 特に人道支援・災害救援を念頭においた各種協力は、重要だ。人道支援・災害救援は、各国の軍隊が携わり、情報を収集し、海から陸へ物資を運ぶ作業などを伴う。したがって、これは軍事作戦を行う場合との共通性が多い。

 また、海洋状況把握についても同様である。海洋で何が起きているか把握することは、海洋安全保障の第一歩である。今回は、この取り組みもクアッド首脳会談で含まれた。

 さらに、今回は、宇宙分野での協力が取り上げられ、衛星情報の共有、他の国々への提供も合意している。

 こうした取り組みは、実際には民生用でも、軍事用に使うことができる、いわゆるデュアルユースの協力である。例えばインドの場合、米国と軍事演習を行う場合、人道支援・災害救援の演習をすることが少なくない。


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