2024年4月19日(金)

WEDGE REPORT

2022年6月1日

――中国も今回の「軍事介入」発言には強く反発しているようですが、中国側はどう見ていると思われますか。

クラフト バイデン大統領の発言に対しては早速、強く反発している。これは中国も失言ではないと感じているからだ。すぐに、中国の王毅外相がソウルやフィジーに行っているが、これは今回の米国を中心としたアジア諸国との結束に対して中国が危機感を持ったことの表れだと思う。そういう意味では今回の一連の首脳外交は成功したと言える。

――岸田首相は、日本を含む11カ国が参加している環太平洋連携協定(TPP)に米国が入ってくれることへの期待を表明していますが、米国がTPPに戻ることは絶望的なのでしょうか。

クラフト 岸田首相が期待表明していることは、可能性はまだあると思う。米国議会も少しずつ変わってきている。やはり対中国政策としてアジアの貿易網の一角を米国が担わないと、中国と対等に戦えないという意識が少しずつ議会の中に芽生え始めている。このため、バイデン・岸田両首脳は、(米国の復帰は)今は無理だとしても、中間選挙が終わった来年、再来年あたりを目指しているのではないか。

 大統領選挙があるので、分からないが、今はむしろ共和党の方が貿易協定に対して前向きになりつつあり、今回は民主党の進歩派が反対している。そういうわけで、今回は党内が統一できない中で、苦肉の策としてIPEFでまとまったという実情がある。

ウクライナ戦争の終結、そした中露との関係は?

――ウクライナ軍事侵攻の停戦の可能性はあるのでしょうか。

クラフト ゼレンスキー大統領はロシアに奪われた領土の全面返還を主張し、プーチン大統領はドンバス地域の獲得を掲げている。両者が譲らないので、いま米国はこの戦争の落としどころがどうなるのか、見えていないのが最大の悩みだ。

 プーチンも何か成果がないと停戦には応じられないので、いまドンバスで攻勢をかけている。米国は9月まで5兆円予算を組んで支援することにしているので、その効果は出てくると思う。しかし、戦争は守る方が優位なので、ロシアがほぼ支配下に置いているドンバス地域や南部地域をウクライナが取り戻すのは相当難しいので、長期戦になる可能性がある。

 今、米国はロシアを債務不履行(デフォルト)に追い込もうとしている。そうなるとロシアは資金調達が余計に難しくなる。おカネの切れ目が戦争継続を困難にさせます。見えない裏で債務不履行になるよう仕向けていますので、数週間以内にS&Pなどの格付け会社が事実上のデフォルト認定するのではないか。

――中国はロシアとの関係をどのような狙いがあって維持しようとしているのでしょうか。

クラフト 中国は政治的、外交的にはロシアと近づきながらも、貿易面では距離を置いてきている。ロシアからの輸出入は控えている。要するに米国から二次経済制裁を加えられないように自制をしている。しかしこの局面で政治・経済的に中国がロシアに寄り添うメリットを考えた時に、一つは何年か後に中国が台湾を攻めるという意図がある時に、西側と対立してエネルギーを止められた時にロシアから供給してもらうことまで考えているとすると、中国の今回の行動はつじつまが合うのではないかと思う。

 ロシアのウクライナ侵攻で中国が得た教訓は、「台湾有事」の時のエネルギーの確保と外貨資産の引き上げだ。中国はいま1兆ドルの米国債を持っていて、これを緩やかに減らしてきている。「台湾有事」になるかどうかの一つのヒントは、「有事」が近づけば外貨建て資産を引き上げるはずで、これが急速に始まると危ない。

   
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