一方で、米国の新エネルギー政策は、中東関係の放棄にはつながらない。米海軍の第5艦隊がペルシャ湾から撤退することは当面ないだろう。中東からの米国の石油輸入も余り落ちてはいない。そして、中東情勢には米国はイスラエル、イラン、テロ対策に関与するという政治的理由がある。ワシントンは今、強制歳出削減で財政危機と戦っている、それは軍事関与の削減模索に繋がっている。その結果、アラブ湾岸諸国は中国ではなく日本と韓国といったアジアの顧客との関係を深めることを始めている、と論じています。
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最近は、米中が新政権による米中新冷戦の時代という対立軸や、エネルギー革命(シェール革命)が世界経済を変えるという論評が見られるようになりましたが、筆者のミルズは、地質学と経済学を修めており、中近東での生活が長くペルシャ語とアラビア語を話す石油業界のプロならではの視点を提供しています。
米中エネルギー獲得競争にとっては、2005年というのが一つの節目と言えます。2005年6月に、中国海洋石油(CNOOC)は、米国の石油会社ユノカル買収を発表しましたが、米国内で、石油が中国企業に渡ることへの警戒感や同社の技術・設備に軍事転用が可能なことへの懸念から、激しい反発が起こり、計画は頓挫しました。中国政府が海外権益の確保強化に走り出したのは、この件が一つの転機と思われます。
同年12月には、米外交問題評議会が、アフリカ報告書の中で、中国が、アンゴラ、スーダンなどのアフリカ産油国への経済援助・軍事支援を強化して新たな原油供給先を次々と確保していったことを指摘し、中国とのエネルギー獲得競争は不可避との見通しを示しています。
こうした経緯で2005年頃から顕在化してきた米中エネルギー獲得競争が、今や一つの潮目にきていることを、本論説は実感させます。エネルギーの海外依存は、特にそれが特定の供給元に集中している場合には大きなリスクとなり得ます。エネルギー確保が国家行動の動機となってしまった中国には、戦前の日本の姿が重なって見えなくもありません。
エネルギーを海外に頼る際は、国内生産を上げ、又、省エネにより消費量を減らすと共に、それでも賄えない部分について可能な限り供給元の多様化を進める事が、エネルギー獲得競争の基本です。それは、もちろん、日本のエネルギー政策にもあてはまることです。震災後、原発の稼働停止によってLNG輸入が膨大な量に達しているのは、エネルギー安全保障の基本原則に反しています。一方、米国が対日輸出を許可しようとしているLNGや石油についても、過度の依存に陥れば、好ましくない条件の附帯といったコストがかかる事はあり得る、ということに留意すべきです。
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