7、8年前に中国天津市環境局のお手伝いをしたことがある。市の大気汚染、天津市が面する渤海湾の水質問題などを環境局の幹部と定期的に議論していた。天津市を訪問する際には北京空港から高速道路で向かうことが多かったが、冬場にはよく「霧」により北京と天津間の高速が通行止めになり、列車で向かうこともあった。
「霧」と言われていたが、「霧」が出ている天津市に入ると石炭の匂いが立ち込めており、暖房用の石炭も「霧」の原因だろうと思わざるを得なかったが、今年ほどひどい汚染の状況ではなかった。実は、大気汚染は中国と日本だけの問題ではない。欧州でも国家間の大気汚染が問題になっている。
毎週1基の石炭火力が新設される中国の電力需要
中国で大気汚染を作りだしているのは、発電所を主体にした大量の石炭燃焼と自動車の排気ガスだろう。中国の発電量は世界一だ。日本の発電量の4倍以上、世界の発電量の5分の1以上を占める。中国の2000年の発電量は日本とほぼ同じ1兆1000億kWh強だったが、12年には4兆6000億kWhに達している。この発電の大半は石炭が作りだしている。石炭は国産エネルギーで、しかも最も価格競争力がある燃料だからだ。
12年の発電量のうち、石炭火力が占めるシェアは約80%だ。急増する電力需要を満たすために多くの発電所が建設されている。12年に建設された発電所は9000万kWだが、そのうち石炭火力が占める割合は59%、設備容量では約5400万kWになる。日本の10電力会社が保有する全発電設備量は2億kWだ。1年で、その4分の1を超える設備の石炭火力が新設され、中国のどこかで毎週100万kWの石炭火力が操業を開始していることになる。老朽化した古い石炭火力の中には閉鎖されるものもあるが、閉鎖される能力は新設される発電所の数分の一だ。
この石炭による発電量の増加を満たすために、中国の石炭生産と消費量も急増している。2000年に15億トンだった消費量は11年に38億トンに達している。全世界の石炭消費量81億トンのほぼ半分を中国だけで消費している。世界最大の石炭生産国中国も急増する需要を満たす増産を行うことは難しい。11年の石炭輸入量は1億9000万トンに達し、日本の1億7500万トンを抜き世界最大の石炭輸入国にもなった。
米国も経験した石炭による大気汚染
石炭には硫黄分、窒素分などが含まれている。また燃焼に伴い煤塵も排出される。硫黄分、窒素分の低い石炭を選び、脱硫、脱硝、電気集塵機の環境対策設備を導入すれば、大気汚染はまず引き起こされない。