(出所)米国環境庁
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しかし、環境対策には金がかかる。過去、環境対策を怠ったために英国、米国などで深刻な問題が引き起こされた。図は1989~91年の米国の酸性雨の状態だ。米国ではシェールガス革命による天然ガス価格の下落により石炭による発電のシェアは低下し12年には40%を切ったが、最近まで、ほぼ50%の発電を石炭に頼っていた。年間約10億トンの石炭を発電で使っていた。もし、日本が石炭火力で全て発電しているならば、これだけで日本の全発電量を十分賄える量だ。
日本では硫黄分1%以下の低硫黄の石炭を、脱硫装置を設置したボイラーで燃焼しているが、90年頃の米国では硫黄分3~4%の高硫黄分の石炭を脱硫装置なしで燃焼していた発電所が、高硫黄分炭の生産地である中西部に多くあった。燃焼により排出された硫黄分が雨に溶け深刻な酸性雨を引き起こし、カナダ政府から抗議を受ける事態にまでなった。図が酸性雨の広がりを示している。解決のために大気浄化法が90年に改正され、石炭火力発電所はまず排出する硫黄分について規制を受けることになった。
高硫黄分の石炭を使用していた火力発電所は、脱硫装置を設置するか、低硫黄分の石炭に燃料を切り替えるか、目標を達成した近隣の発電所から排出枠を購入するか、いずれかの方法により規制値を達成することが要求された。低硫黄分の石炭を脱硫装置付きのボイラーで燃焼している日本の基準と比較すると、まだ緩い基準だが、この法改正により硫黄分の総排出量は半減し深刻な酸性雨問題は解決した。
完全には解決していない英国の大気汚染問題
かつてロンドンのスモッグを経験した英国でも、依然として大気汚染の問題がある。欧州委員会は英国など20カ国が欧州の大気に関する環境基準を満たしていないと指摘している。また、欧州環境庁によると、欧州の都市人口の95%は世界保健機関(WHO)の推奨レベルを満たしていない大気の中で生活している。
英国政府の大気汚染に関する健康評価委員会によると、2008年英国では大気汚染により29000人が早期の死に至ったとされている。最近発表されたマサチューセッツ工科大学の研究者のレポートでは、英国での死者の数は年間19000名とされているが、このうち7000名は大陸から流れてくる大気汚染の影響によるものとされている。