電力市場の規模が全米トップで、かつ天然ガスや風力発電・太陽光発電といったエネルギー資源にも極めて恵まれたテキサス州で、深刻な電力危機が近づいていることはあまり知られていない。輪番停電を経験するほど電力需給が逼迫しているのに、一方で戸建住宅向けに「ナイトフリー(夜間無料)」というメニューが存在するという不思議な事態に陥っている。
独特の電気事業制度を持つテキサス
米国の各州を電力使用量別のトップ10で見ると、テキサス、カリフォルニア、フロリダ、ペンシルバニア、イリノイ、ニューヨーク、ジョージア、オハイオ、アラバマと続く。このうちいわゆる電力自由化州はテキサス、ペンシルバニア、イリノイ、オハイオのみで、電力自由化に失敗したカリフォルニア、マンハッタン以外のニューヨークはじめ過半は総括原価主義による小売独占地域となっている。広い米国の中でもテキサスとペンシルバニアがよく二大電力自由化モデルと言われ、日本でも紹介される由縁である。
テキサスは、米国の中でもまわりの州とあまり連系線を持たず、電気的な独立性が強い上、2000年代当初の制度改革でガス出身の攻撃的プレーヤーであったエンロンが強くかかわったことで、独特の電気事業制度を持っている。
州のすべての電力系統運用は独立系統運用であるERCOT(テキサス電力信頼度協会)が行っており、各電力会社は発電・送配電・小売会社に分社化している。ここまでは米国では珍しくないが、それに加えて全米でテキサスだけが、新規参入者が電源を入手しやすいように電力会社の電源の強制売却や発電能力の入札による新規参入者への引き渡しを行うなど、強力な競争政策を推進した(その結果、後に述べるように電力安定供給の担い手がいなくなってしまった)。
さらに特徴的なのは、電力自由化した他の各州が安定供給の担い手がいなくなってしまうのを防ごうと、新規発電投資に強い補助効果を与える容量メカニズム、例えば発電設備の保有そのものに対する小売事業者からの支払いを制度化しているのに対して、テキサスがこのような制度を持たないことだ。「発電所が足らなくなれば電力スポット価格が高騰して建設インセンティブが働くはずだ」という市場原理主義を信じているのである。
こうした制度改革の結果、安定供給義務を持つ者は制度的にも実質的にもいなくなり、テキサスの供給予備力(ピーク需要に対する発電設備の余裕)は40%強くあったものがあっという間に一桁になった。これは原子力発電所がほとんど停止している今のわが国に近いレベルであり、テキサスは2011年冬、自由化前にはありえなかった輪番停電を経験するに至った。