2024年11月23日(土)

うつ病蔓延時代への処方箋

2013年5月8日

 もちろん年齢差や個人差はありますが、アドレナリンが増えると血管が収縮するので血圧が上がります。若い人に高血圧が増えているのは、ここに問題があるのではないかとみています。また、毛細血管に血が届きにくくなるので低体温や冷え性になる。これらは健康面で大きなマイナスです。毛細血管も含め血流が悪くなるので虚血性疾患に陥りやすくなる。これは血が詰まりやすい状態になることで脳梗塞、心筋梗塞が心配されます。

 免疫学的な側面から言えば、白血球の約55%を占める好中球という免疫細胞があり、これが体内に侵入した細菌を細胞質顆粒内の活性酸素で殺します。ところがストレスが多い現代社会では、交感神経優位でアドレナリンが増えてくるので、この分だけ好中球が増えてきます。つまり活性酸素も増える。好中球の寿命は2.5日くらいです。その後は血管や消化管の壁で死にますが、その時に活性酸素を放出するために、血管内では動脈硬化を消化管では潰瘍を引き起こします。さらに遺伝子を傷つけ発がんにも結びつきます。

 ストレスで胃潰瘍になるのは当然の流れなのです。さらに心までを脅かしてしまう。これが現代社会なのです。ストレスを取り除くことだけでなく、加齢による交感神経優位を変えるため、副交感神経を刺激しバランスさせることがとても大事なことです。健康を保つひとつの方法です。その刺激法として、私は音楽療法を研究しています。

モーツァルトの曲にある効果

―― 日本人の死亡原因の1位はがん。動脈硬化など虚血性疾患も多いことを考えると、これも現代社会が抱える構造的問題になる、ということですね。うつ症状を引き起こす原因も他の疾病も同根の部分がある、ということがいえるのではないでしょうか。交感神経優位の社会を変えていくことが、うつやがんを減らす近道ということになる。

和合:現在の社会システムを変えることは容易ではありません。それならば違う形で交感神経優位の現状を変えていくべきでしょう。そこに着目したのが音楽療法です。研究を始めて20年になります。音楽といっても何でも効果があるというわけではありません。私はモーツァルトの曲を分析してきましたが、この効果を実験で実証しています。心身を和ませ安静モードにもっていく副交感神経を刺激することで、交感神経優位にストップをかけられます。

 副交感神経を刺激する音域があります。それを多く含んでいるのがモーツァルトの曲なのです。とくにお勧めするのがバイオリン協奏曲K218やK219。モーツァルト以外ではバッハのG線上のアリア、中国の二胡の曲なども高い効果を得ています。実験では、がん患者にモーツァルトの曲を聴いてもらい、がん細胞と闘うリンパ球の数を調べたら、聴いた後にリンパ球が増えるという実験結果を得ました。健康な人での実験では、体温が上がり、唾液量が増えるとともに、血圧や心拍数が安定化しました。唾液中の免疫物質は増加する一方で、ストレスホルモンは減少するのです。


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